第十五章 もう、離れない…

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第十五章 もう、離れない…

「それ以上顔を近付けたら、殴る」 「はぁ?それを言うなら、少しでも動いて見ろ!ぶっ飛ばす!」 文化祭まであと僅か…。 いよいよ芝居の稽古も佳境に入る訳で…。 出会い頭のキスシーン。 僕の声が戻ってから、毎回、睨み合いの喧嘩になる。 「はい!お二人共!ここは一目惚れをして愛を育むシーンですのよ!何でそんなに、殺伐となさるんですの!」 西園寺さんの容赦無い檄が飛ぶ。 「西園寺さん、やっぱりここだけでも他の人に…」 「却下ですわ!」 僕と翔の訴えは、呆気なく却下される。 「では、こうなさって下さいませ!」 ツカツカと西園寺さんは僕に歩み寄り、僕の顎を掴むと、顔が重なるように顔を寄せる。 その時、教室から悲鳴が上がった。 「こうすれば、キスしているように見えましてよ!」 そう言われて、僕から離れる。 僕、がっくり項垂れる。 (く…屈辱…。女性に…女性に顎を捕まれるなんて…) 西園寺さんは女性にしては身長が高く、170cm近くはある。 だとしても……だ。 男として、何か大切なモノを失った気がする。 落ち込んでいる僕に、翔は西園寺さんと話をしながら僕の顎を掴んだ。 斜めに顔を重ねると、さっきとは違う黄色い悲鳴が上がった。 「それでしたら、そんなに顔も近付けなくて良いですし、こちら側から見たらキスしているように見えましてよ」 「成程な…」 真剣に話し合う2人に、僕は諦めるしか無いんだと溜息を着く。 その時 「西園寺さん、届きましてよ!」 教室のドアが開き、箱を持った須之宮さんが入って来た。 「まぁ、早速衣装合わせ致しましょう!」 キラキラと目を輝かせた女子が、須之宮さんが持ってきた箱を開いた。 箱の中には、白い紙に包まれた真っ赤なドレスが入っていた。 (うわっ!それって…) 毒々しい程の真っ赤なドレスに、金色の刺繍が施された立派なドレスに腰が引ける。 ドレスを広げると、女子が一斉に僕を見る。 キラキラした目をして 「蒼介様、フィッティング致しましょう!」 そう言いながら近付いて来る。 「あ…嫌、採寸したんだし……大丈夫だと思うよ。」 必死に笑顔を作って言うと 「ダメですわ!さぁ、こちらで着替えて下さいませ!」 有無を言わせない西園寺さんに、押し込まれた空き教室で仕方無くドレスに着替える。 後ろのファスナーは、翔に上げて貰う事にした。 「ったく、何で俺が…」 ブツブツ文句を言いながら、ドレスのファスナーを上げていると 「あれ?お前、こんな所にホクロあるんだな?」 翔に背中の真ん中を触れられる。 「ひゃぁっ!」 っと声を上げると 「気持ち悪い声出すなよ!」 って怒られた。 「お前が急に、そんな所に触るからだろうが!」 僕が翔の頭を殴ると 「お前色白だから、背中の真ん中のホクロが目立つんだよ」 翔がそう続けた。 「ホクロ?」 「そう。丁度、背中の真ん中。知らなかったのか?」 僕が首を横に振ると 「まぁ、自分の背中なんて見ないからなぁ~。普通は気付かないか…」 翔はそう言うと、首を傾げた。 ふと、思い出す。 田中さんが僕に気付いたのって…。 「翔、僕のうなじにもホクロある?」 後ろ毛を上げて聞くと、翔は面倒くさそうに見て 「あぁ、少しでかいのと小さいのが並んでるよ」 って言いながら、ホクロの部分を押して来た。 「だからか…」 思わず呟くと 「はぁ?何が?」 翔が怪訝な顔をして聞いて来たので 「ほら、前にお前の父親の会社のモデルをやっただろう?あの時、何故か田中さんに僕の正体がバレたんだよ」 と呟く。 「へぇ~」 興味無さそうな返事を無視して 「そっか…、ホクロかぁ~」 理由が分かって納得していると、翔が嫌そうに顔を歪めている。 「なんだよ…その嫌そうな顔」 僕が翔にそう言うと 「あのさ、お前等がどう付き合おうが勝手だけどさ…。頼むから俺を巻き込むな!」 って怒り出した。 怒ってる意味が分からないでいると 「お前さ…何で田中がお前の背中にホクロがある事を知ってるのかを、俺に言わせたいのか!」 って言われて気付いた。 羞恥で顔が真っ赤になる。 「あ、ごめん。そういうつもりじゃ無かったんだけど…」 「恥じらうな!肯定されてるみたいで、気持ちが悪い!」 そう叫ばれて 「気持ちが悪いは失礼じゃないか!」 って反論すると 「はぁ?じゃあ聞くが、お前、俺のそっちの事情を聞かされたとしたら、平気なのかよ!」 と言われてハッとした。 「…ごめん」 僕が落ち込んで呟くと 「親友と自分の兄貴みたいに思ってたヤツが…っていうだけで複雑な心境なんだよ。それがそれ以上…ってのは想像もしたくない事なんだよ。」 そう言って翔が僕の頭をポンポンとする。 すると、更衣室のドアがノックされた。
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