第十五章 もう、離れない…

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文化祭当日。 僕が女装するという嬉しくない噂(事実だけど…)が広がり、劇の客入りは立ち見が出る程だった。 「皆様、ご覧になりまして?我が校始まって以来の快挙ですわ!」 目を輝かせる西園寺さんにげんなりする僕と翔。 「あ…そうそう。今日、田中が会社を休んで観に来るってさ」 開演間際、翔がポツリと呟いた。 僕の思考が一瞬止まる。 「……はぁ?」 翔の言葉に叫んだ瞬間、開演のブザー音が響いた。 「お前、何で今言うんだよ」 「この間の仕返し」 翔の言葉に疑問の視線を投げると、返事の前に 「翔様、出番です」 と、西園寺さんに呼ばれてステージへと行ってしまった。 (仕返し?何の?) 考えてから、先日のあおちゃんとの事を思い出した。 あの日以来、あおちゃんが完全に翔の事を避けるようになった。 多分、僕と翔の事を誤解してしまったんだろう。 翔は益々嫌われたと怒ってたけど…。 でも…僕から見たら、あおちゃんは翔の事を嫌っているとは思えないんだけどな…。 首を傾げて考えていると僕の出番になってしまい、そこで僕の思考は停止した。 …文化祭の劇は、翔のお父さんの会社のメイクさんのお陰もあって大成功で終わった。 そして知らなかったのだが、お客様と全校生徒が印象に残った人を投票するらしく、僕は津久井先輩の予言通りMiss桐楠大附に選ばれた。 お芝居も大好評を頂き、僕達のクラスは総合優秀賞に選ばれる。 「翔さん、蒼介さん。素晴らしかったですよ」 劇が終わった後、田中さんに満面の笑みで言われてしまう。 「バッチリ録画しましたので、社長にお見せしますね」 「良い!そんなモノ見せんな!」 叫ぶ翔に 「そうはいきませんよ!私がお休みを頂けたのは、この映像をお見せする約束したからですし。我が社のスタッフの活躍も見て頂きたいですし」 笑顔で答える田中さん。 僕が苦笑いして見ていると 「お前、笑ってんじゃね~ぞ!」 って翔が怒ってる。 「だって…仕方無いじゃないか。翔の会社の方にかなりお力添え頂いたんだから…」 と呟いた僕に 「お前…本当に田中の言うことだけには、YESマンだよな」 って、不貞腐れた顔で呟く。 「そうじゃないよ。だって、実際にとてもご協力頂いてるんだし…」 困った顔で僕が反論すると、田中さんの手が僕の頭を撫でて 「それ以上言うと、益々翔さんが反論しますよ。私は大丈夫ですから」 って、田中さんが微笑む。 「でも、本当に素晴らしいロミオとジュリエットでしたよ。感動致しました」 笑顔でそう言われて、僕の心にモヤモヤが生まれる。田中さんは、僕が翔とラブシーンをしても平気なんだ…。 お芝居だから仕方無いって分かってる。 分かってるけど、少し位はヤキモチ妬いて欲しいと思うのは我儘かな? そんな事を考えていると、生徒会長達がこちらに向かって歩いている姿が見えた。 すると田中さんは 「では、もう行きますね。」 笑顔を浮かべて言うと、僕達に背中を向けて歩き出した。 田中さんはまだ、僕と会長が付き合っているのを知っている。 だから気を使って、こうして会長に僕と一緒に居る姿を見せないようにしているっぽい。 「おお!今日の功労賞の赤地~」 生徒会の皆さんが来てくれていて、感謝の気持ちはあったんだけど…。 僕はモヤモヤをそのままにしたくなくて 「あの…」 盛り上がる先輩達に声を掛ける。 「どうした?」 津久井先輩に優しく声を掛けられ 「少し外しても良いですか?」 申し訳無い気持ちで伝えると 「赤地、こっちは気にしないで行って来い」 会長が笑顔で僕に答えた。 「俺達の話なんて、大した事じゃないんだ。 後で良いよ」 そう言われて、僕は頭を下げて田中さんを追い掛けた。 僕が走って駐車場へ行くと、丁度田中さんは車に乗り込む所だった。 「田中さん!」 必死に呼び止めると、田中さんは驚いた顔で車から降りてくれた。 「蒼介さん、どうしたんですか?」 息を切らせて近付く僕に、田中さんが戸惑った表情を浮かべる。 「聞きたい事があって…」 呼吸を整えながら呟く僕を、田中さんが突然抱き締める。 (え…?) 驚いて固まっていると 「すみません。蒼介さんより歳上ですし、理解のある大人でいようと努めてはいるのですが…」 田中さんはそう言うと、そっと僕の頭を撫でた。 その瞳はいつものように優しくもあり、少しだけ切なそうに揺れている。 僕が田中さんの意図が分からずポカンとしていると 「とてもお二人がお似合いでしたので、実は嫉妬していました」 そう呟く田中さんの言葉に、僕はホッとして苦笑いを浮かべた。 「良かった。僕、田中さんは僕が誰と居ても平気なんだと思っていました」 僕の言葉に田中さんは困った顔で微笑むと 「平気な訳が無いじゃ無いですか…。いつだって、あなたを独り占めしたい気持ちでいっぱいですよ。でも、それはお互いの為にはならないと解っていますから…。」 と答える。僕はその言葉が嬉しくて、田中さんに抱き着くと 「良かった…。」 そう呟いて微笑む。 嫉妬して欲しい訳では無いけど、誰かと一緒に居ても平気なんだと思うと、好きなのは自分だけのような気がして切なくなってしまう。 「あなたより年上な分、きちんと節度を持って接しようと努めてはいるのですが…。人の気持ちというのは厄介ですね」 苦笑いを浮かべる田中さんを、ギュッと抱き締める。 「蒼介さん?」 「心の中が見えれば良いのに…」 ポツリと呟く。 「僕の心の中は、いつだって田中さんでいっぱいなのに…」 僕の言葉に田中さんが小さく笑う。 「それはお互い様ですよ」 田中さん言葉に胸が痛くなる。 どんなに思い合っていても、結局は違う人間同士だから誤解が生まれる。 でも、分からないから分かろうとするんだとも思うけど…。
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