第十五章 もう、離れない…

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僕が再び田中さんをギュッと抱き締めると 「蒼介さん…」 困ったように田中さんが笑う。 そしてそっと僕の頬に触れたかと思った瞬間 「すみません、ちょっと失礼しますね」 と、田中さんの声がしたかと思うと、背後で車のドアが開く音がした。 そして軽く抱き上げられると、運転席のシートに下ろされる。 疑問に思って田中さんを見上げた瞬間、ガクンと運転席の座席が倒されて田中さんが被さるように運転席に乗り込んで来た。 ゆっくりと田中さんの顔が近付き、僕も瞳を閉じる。 重ねた唇が愛おしくて、差し込まれた舌を待ちわびていたかのように受け入れる。 角度を変えて重なる唇に、息が上がる。 「んっ…」 小さく呻くと、田中さんの唇がゆっくりと離れた。 重なる身体の中心はお互いに熱を帯びていて、僕は無意識に田中さんの身体に自分の身体を密着させていた。 こんなに誰かを欲しいと思うのも、肌を重ねたいと願うのも田中さんだけなんだと実感させられる。 田中さんの背中をかき抱き 「陽一さん…陽一さん…」 僕がうわ言のように名前を呼び続けると 「蒼介さん…さすがに此処でこれ以上は…」 困ったように笑う田中さんに、僕は潤む視界の中で田中さんを見つめた。 すると田中さんは僕の額にキスを落とし、ゆっくり抱き締めて溜息を吐いた。 「あなたは…何処でそんな風に男を誘うやり方を覚えて来るんですか?」 そう囁いて、僕の頬に触れる。 その言葉に思わず赤面して 「さ…誘うって…」 と口ごもると、再び田中さんは大きな溜息を吐いて 「無自覚ですか…。益々、タチが悪いですね」 そう言って僕の頬や目、鼻、頬にキスを落とす。 田中さんの唇が触れるだけで、身体が熱く熱が灯る感覚になる。 「やぁ…。それ以外触れられたら、我慢出来なくなるからぁ…」 身震いして呟いた僕に、田中さんの指がするりと頬から首筋を流れて、シャツの上から胸元に触れる。 「あっ…」 小さく喘ぐと、田中さんが僕の制服のネクタイを外してシャツのボタンを2つだけ外した。 顎から首筋を辿る唇が、鎖骨の所で甘噛みされてジュッと吸われる。 「やぁ…ぁ」 腰に甘い痺れを感じて、喘ぎながら無意識に田中さんの中心へ熱を帯びた部分を擦り付けてしまう。 目尻に浮かぶ涙にキスを落とされ、布越しに伝わる体温がもどかしい。 そっと田中さんの頬に触れようと伸ばした手を、田中さんの手が掴んで掌に唇を落とした。 「こんなに愛おしいと思えるのは、あなただけですよ。蒼介さん」 優しく微笑む田中さんに、僕も頷いた。 額に額を当てられ、小さく微笑む。 そして1度キツく抱き締められると、田中さんの身体がゆっくりと離れた。 素早くネクタイを締めて、僕の衣服の乱れが無いか確認すると椅子を元に戻し、田中さんが車から1度降りて僕の頭を優しく撫でる。 「あまり遅いと、翔さんに変に思われますからね。」 田中さんはそう言うと、ドアを開けたまま僕が出るのを待っている。 寂しいという気持ちと、まだもう少し触れて居たいと思う気持ちを押し込めて田中さんに笑顔を返す。 「はい。では又、帰りに…」 僕はそう言って車から降りて校舎へと歩き出す。後ろから、車のエンジン音が響いた。 離れる度に、こんなに切なくなるのは何故なんだろう? 鎖骨に記された、田中さんの所有の印に手で触れる。 どのくらい好きになったら、この気持ちは落ち着くんだろう? 答えの出ない思いを抱え、僕は教室へと戻った。
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