第十五章 もう、離れない…

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文化祭が終わると、バタバタと次の生徒会役員候補の選出になり、生徒総会で新生徒会役員の発表になった。 2年生で、しかも外部入学の僕は反対をされると覚悟を決めていた。 …が、あっさりと認められ、生徒会会長という重い任務を任されてしまう。 翔は僕のとばっちりを受けて、生徒会の書記に選ばれた。 「赤地。もし、お前に逆らう奴が居たら、目を潤ませて『やっぱり…僕なんかが会長なんて…不服ですよね』って言え。良いな」 津久井先輩が、引退する時に僕に伝授した秘技らしい。 「はぁ…」 唖然としながら頷く僕に、津久井先輩が 「練習してみろ」 って言い出した。 「え!今ですか?」 新旧揃った生徒会役員の前で言われて戸惑っていると、 「面白いからやってみろよ」 って、翔の奴がニヤニヤしながら言ってきた。 僕は俯き加減に 「そんな恥ずかしい事…無理です」 って言ってみたら 「そうだぞ!雪人!お前、赤地になんて事を!」 と、冴木会長が立ち上がって叫んだ。 その瞬間、津久井先輩は会長の頭をノートで叩き 「お前が釣られてどうすんだよ!」 そう言うと、ドっと笑いが起こる。 「まぁ、大丈夫そうだな。お前、綺麗な顔をしてるんだから、もっと利用した方が良いぞ」 津久井先輩はそう言って微笑んだ。 前から思っていたけど、実はそう言っている津久井先輩こそ綺麗な顔をしている。 身長が高くて綺麗な顔をしているから、密かに人気があるのも最近気付いた。 「まぁ、俺達は引退するけど、いつでも協力するから、遠慮なく相談しに来てくれ。」 会長の言葉に、本当に引退しちゃうんだって実感した。 そう思ったら様々な思い出が甦ってきて、涙が溢れて来た。 「わぁ~!冴木会長が赤地泣かした~」 「いじめだ、いじめ~」 等と、周りが茶化す中、会長の手が僕の頭に乗せられて 「まだ卒業まで先なんだから、そんなに悲しむな」 そう言われて、益々涙が滝のように流れて来た。 「僕…、会長が築き上げた生徒会を、きちんと守ります」 泣きながらそう呟くと 「ありがとう。でも、赤地は赤地だから出来る生徒会を作って欲しい」 と言われた。 (僕だから出来る生徒会?) 思わず会長を見つめると 「赤地~!やっぱり好きだ!」 って言いながら、抱きつこうとして来た。 すると、一瞬早く津久井先輩の手が伸びて、会長のネクタイを引っ張り引き戻す。 「何すんだよ!」 「俺の前で、堂々と浮気ですか?」 「お前、こんな所で!」 僕の距離だから聞こえてしまったヒソヒソ話。 思わず津久井先輩を見上げると、にっこり微笑んで『だから、もう渡さないよ』って視線で言われてしまう。 (そっか…。津久井先輩と冴木会長…、良かった…) 思わず嬉しくて微笑んでいると 「赤地、何をニヤニヤしてる?」 って、冴木会長に言われてしまう。 「いえ。あの…お幸せに」 微笑んで呟くと、冴木会長が真っ赤な顔をしてアワアワし始めた。 津久井先輩は、穏やかな優しい笑顔を浮かべて 「ありがとう、赤地」 って言いながら僕の頭を撫でた。 すると他の生徒会のメンバーが 「何が?何が?」 ってザワザワしている。 「お前達も、赤地みたいに『生徒会役員を終えたら、今度は先輩達が幸せになって下さい』位、言って見ろよ!」 って、津久井先輩がフォローしてくれた。 「なんだよ~、赤地。ビビった~。」 「津久井先輩、婚約者と学生結婚するのかと思った」 と、口々に言い出した。 津久井先輩は小さく微笑むと 「夏葉殿はまだ中学生なんだから、無理に決まってるだろう」 そう答えていた。 そうか…。 冴木会長も津久井先輩も、それぞれに決められた相手が居るんだった…。 この2人は2人で、乗り越えなくちゃならない問題が山ほどあるんだろうな…。 僕はそう思いながら、2人の顔を黙って見つめていた。 バタバタと月日は流れ、僕と田中さんの関係もまだ以前のまま。 なんとなく「別れました!付き合います!」って出来なかった。 たくさんの人を傷付けた分、もう少し様子を見てから…って思っているうちにタイミングを逃してしまったのだ。 3年生の卒業式も迫ったある日、僕はいつも通り参考書を買いに本屋さんに来ていた。 その本屋さんは自宅より数駅行った所にあり、6階建の大きな本屋さん。 僕が幾つか参考書をパラパラ捲って考えていると 「あの…」 と声を掛けられた。 声の方へ振り向くと、見知らぬ制服を来た女の子が立っていた。 思わず辺りをキョロキョロ見回すと 「赤地君ですよね?」 と言われた。 「え?僕?」 驚いて確認すると、その子は頷いて 「お話があるんですが、少しお時間頂けませんか?」 そう真剣な顔で言われる。 僕は手にしていた参考書を棚に戻して、その子の後に着いて行った。 図書館の裏側に公園があり、そこにもう1人呼び出して来た人と同じ制服を着ている女性が立っていた。 顔を見ても、やっぱり知らない顔だった。 物凄く緊張した面持ちで立っていた彼女は、僕が現れると息を呑んで益々緊張した顔をした。 僕が疑問の視線を投げると 「あの…呼び出してすみません。私、隣の女子校に通う石崎と言います。実は、3月に卒業してしまうので…どうしてもその前に気持ちを伝えたくて…」 そう言うと、深呼吸して 「ずっと見てました!好きです、付き合ってくれませんか?」 と言われたのだ。 「え?僕?翔じゃなくて?」 思わず聞くと、その人は泣き出しそうな顔を真っ赤にして頷いた。 一瞬、ドッキリなんじゃないかと思ったけど、彼女の真剣な表情に 「ありがとうございます」 と答えると、彼女の瞳が少し希望を持ったように輝く。 「気持ちは嬉しいですが…ごめんなさい。僕、好きな人が居るんです」 そう返事をすると、その人の瞳から涙が溢れ出した。 「そう…なんだ。ごめんね、呼び出して」 必死に笑顔を作る彼女に、僕は言葉が見つからない。 好意を持たれた事は正直、嬉しいと思う。 でも、僕の心は田中さん以外の人を受け入れられないのがもう分かっている。 僕が彼女にお辞儀をして背中を向けて歩き出すと 「あの!」 って、呼び止められる。 驚いて振り向くと、涙でぐしゃぐしゃな顔で 「その人と…付き合ってるんですか?」 そう聞かれた。 僕は少し考えてから 「ううん。僕の我儘で、待って貰ってるんだ」 って答えた。 すると彼女は 「私が言うのも変ですけど…幸せになって下さいね。じゃないと、振られた私が馬鹿みたいじゃないですか。」 と言って笑ったのだ。 「私、笑ってる赤地君が大好きなんです。だから、その人と幸せになって下さい。応援しています」 彼女はそう言うと、ペコリとお辞儀をして僕とは反対方向へと走り去って行った。
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