第三章 入試と出会い

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勧められた参考書と問題集をこなし、いよいよ受験日になった。 僕は前日にあおちゃんからもらった合格鉛筆の入った筆箱を鞄に入れ、珍しく母さんも「試験に勝つ!で、カツ丼にしたから!」って、山盛りに肉を盛られたカツ丼を作ってくれた。僕は肉が苦手なので、ほとんど章三に食べてもらったけど…。 うちの両親は共働きで、基本的にはあまり家に居ない。 でも、なんだかんだと心配してくれているのは分かっている。 連休になると、いつも僕と章三を連れて旅行に連れて行ってくれたりしているのも、普段家に居ない埋め合わせのつもりなんだろう。 試験当日。 父さんに送ってもらって桐楠大附へと向かった。 桐楠大附に着くと、生徒会の人達が送迎用の出入り口を案内してくれる。 さすが天下の桐楠大附。 普段の通学でも車の人がいるんだろう…。 送迎専用の駐車場が完備されている。 父さんもびっくりしながら、僕が降りる間際に 「蒼介、ダメならそれで良いんだからな。学費とか気にしないで受けて来い」 そう言って送り出してくれた。 僕は笑顔で父さんと分れ、校舎へと歩き出す。 その時、何やら言い争う声が聞こえる。 「だから!俺は嫌だって言ってるんだよ!」 「翔さん、お願いですから受験して下さい」 「ふざけんな!お前等の為に、何で行きたくも無い学校を受けなくちゃいけなんだよ!」 見た感じ爽やかスポーツ少年という感じの奴が、運転手さんともめているらしい。 僕は時計を見ながらそのまま通り過ぎようとした時、ふわりと風が吹いて嗅いだことのあるコロンの香りが鼻腔を掠めた。 驚いて振り向くと、揉めているのがあの日に出会った超絶イケメンだった。 「翔さん!」 校舎と反対側に向かう受験生っぽい爽やかスポーツマンを、必死に止めている。 いつもだったら、こういうのは無視するんだけど…。 僕は揉めているそのスポーツマンの背中を思い切り蹴った。 するとそいつは前につんのめり、驚いたように振り向いた。 「邪魔!ってか、逃げるの?自信無いんだ~」 僕はわざと見下したようにそいつに言った。 するとそいつは悔しそうに僕の顔を見ると 「違う!俺は受験したくなかったんだよ、こんな学校」 そう叫んだ。 その瞬間、僕の眉間にピキって怒りマークが浮かんだ。 「こんな学校だって?ふざけんな!受けても無い、行ってもいないくせに文句言うなよ!」 気が付いたら怒鳴っていた。 「お前に関係無いだろう!」 「はぁ?はいはい、関係無いですね。そうでした、そうでした。敵が減ってラッキー」 って、相手の怒鳴り声に呆れて棒読みで返事を返した。 「まぁ、受験したとしても、お前ごときに僕が負けるとは思えないけどね」 そう言い残し、僕は校舎へと歩き出す。 するとそいつは 「う…受けるだけだからな!」 そう言って、僕を走って抜いて行った。 「何だ?あいつ」 思わず呟くと、再びふわりとコロンの香りが鼻腔に届く。 思わず振り返ると、超絶イケメンが僕に深々と頭を下げていた。 「あ…、そんな。頭を上げて下さい。お礼をしただけですから…」 僕の言葉に、その人は不思議そうに僕の顔を見た。 (そっか…、覚えてる訳ないよね) 苦笑いをして 「以前、参考書と問題集を本屋さんで勧めて頂いたんです。凄く良い参考書で、お礼が言いたかったんです。こちらこそ、ありがとございました」 僕はそう言って、その人にお辞儀をして校舎に向かって歩きだした。 するとその人は突然、僕の腕を掴んで 「あの!…これ、良かったら…」 と、合格祈願と書かれたお守りを手渡した。 「?」 疑問に思って顔を見ると 「あ…翔さんに要らないと言われた物なので…失礼かもしれませんが…」 苦笑いでそう続けた。 僕は笑顔でお守りを胸ポケットに入れると 「ありがとうございます」 とお礼を言って、今度こそ校舎へと向かった。 受験生は50名位なので、受験は2クラスのみの使用だった。 僕が教室に入ると、さっきの奴が席に座っていた。 そいつは僕の顔を見るなり 「あ!お前!」 っと言って、自分の受験番号が書かれた席に着いた僕の前に立ち 「悪い…書くもの貸して」 そう言って来たのだ。 「はぁ?」 僕が呆れてそいつの顔を見ると 「白紙受験するつもりだったから、筆記用具持って来て無かったんだ」 ポリポリと頭をかきながら笑ってる。 呆れた顔をした僕に 「お前が喧嘩売ったんだから、筆記用具を貸してくれ」 と、悪びれもせずに言っている。 僕は溜息を吐いてから 「分かった。貸す代わりに、これ…」 そう言って、さっき受け取ったお守りを手渡した。 そいつはしばらくジッとお守りを見つめた後 「分かった…。お前…お節介だな…」 と言って、そいつがふっ…と笑う。
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