手首

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 手首の傷は、ややケロイド状になっていて。これはさぞかし痛む時もあったろうなと私は思った。先ほどのレストランでの彼女のはしゃぎようを思い出し、私は胸が痛んだ。この痛みをわずかでも忘れようとして、ああやってはしゃいでいたのかもしれないと。  私は慎重に彼女の手を握り、その傷を診察した。赤く盛り上がった傷口は、彼女の手首を、ぐるっと一周していた。その傷口に、これもまた腫れ上がった縫い目を食い込ませて。、その傷口の縫い目を……。  次に私は、彼女の着ていた服を脱がせた。彼女の白い裸体に、まるでジグゾー・パズルの繋ぎ目のように、無数の傷口が広がっていた。それらの傷口それぞれにも、私がかつて縫い合わせた跡があった。 「今のところは、手首だけみたいだね……」  私は彼女の体の傷口を、一つ一つ丁寧に確認しなが言った。 「うん……。でも、お風呂とか入ると、前よりちょっと染みるかなあ?」  彼女はあっけらかんとそう答えたが、それが良くない兆候であることは間違いなかった。おそらくは体の代謝の関係か、それとも「手首の部分」だけが上手くマッチしなかったのか……一度ちゃんと、検査してみないとな。私の自宅のラボで……。  彼女に出会ったのは、私が開業しているちっぽけな医院でだった。明らかにためらい傷だとわかるその手首の傷を診察して、これは危ない子だなとは思ったのだが。それでいて何か天真爛漫で、その傷の事をケロッとした表情で話す彼女に、私は少なからず惹かれていた。彼女も徐々に私を信頼し、色々と相談を持ちかけてきたりもしていたのだが。しかし、彼女はやはり、人知れず心に闇を抱えていた。
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