手首

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 ほとんど一方的に話しまくる彼女の言葉遣いが、私に対して敬語を使うわけでもなく、友達感覚な話し方なのも、そう見える要因のひとつだろうか。もしくは、それなりに高級なスーツに身を包み、金銭的に余裕のありそうな私が、若い娘と「割り切った付き合い」をしている。そうも見えるのかもしれない。先ほどからずっと、目の前にいる彼女の背中越しに送られてくる中年夫婦の冷ややかな視線は、そういう意味合いも込められているのだろう。  だが、彼女のそのフランクな話し方が、私は決して不快ではなかった。いや、むしろそうやって私との間に距離を作らないでいてくれる、そんな彼女の態度に好感を抱いていたと言える。とにかく、通常はそれなりの年収を得ている大人たちが、ゆったりと落ち着いた空間で食事を取る事を目的とするこのレストランで。一人無邪気にはしゃぎ、笑い声を上げる彼女を、私は責めようという気にはならなかった。 「そしたらもう、みんなで大ウケよ。しばらく笑いが止まらなかったわ!」  彼女はフォークでがしっと肉を突き刺し、おもむろに口の中へと放り込んだ。肉を突き刺した時に、フォークの先が思いっきり皿に当たる音が響き、中年夫婦は更に顔をしかめていた。しかも、口に肉を頬張ったまま、まだ熱に浮かされたように話を続けている。まあ、マナーもへったくれもあったもんじゃないな、確かに。
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