手首

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 この店に来る前、彼女と待ち合わせた時からその手首には気付いていたのだが。彼女がそれについて何も語らない以上、そして普段よりもはしゃぎ気味に話を続けている以上。私からその事について触れようとは思わなかった。だから、その手首もなるべく見ないよう心がけていたのだが……。  やはりどうしても、視線はそこに行ってしまう。見ないように、見ないようにと思えば思うほど、つい目線の端で手首の白さを追ってしまっているのが、彼女にもわかっているのではないかと思った。そして彼女も私のそんな視線に気付いて、わざと手首を見せつけようと、自分の顔の前で手を叩いたりしているのではないか。何か、そんな風にも感じられた。  どうしたの、聞かないの? この包帯の事を。なぜ私がこうして包帯を巻いているのか。いかにも巻いたばかりだと自己主張しているような、真っ白な包帯を巻いた、この手首の事を。彼女はそれとはまったく関係ない、どうでもいい馬鹿馬鹿しい話を延々と続けながら、私にそう挑戦的に問いかけているようにも思えた。  それは、彼女とこんな関係を続けている私への、彼女なりの確認行為だったのかもしれない。本当にいいの? こうやって、私と会っていて。もう、私なんかと付き合うのは懲り懲りだと思ってるんじゃない……? そうやって、私の意志を確認しようとしているのではないかと。
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