手首

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 しかし。十分にアルコールが回ったせいか、または自分の話したい事を一通り話し終えてしまったからか。そして、私に見せ付けるように振り回していた自分の手首について、私がいつまで経っても触れようとしないのに業を煮やしたのか。「その話題」に、彼女の方からアプローチを始めた。 「気に、なる……?」  私は彼女のその言葉に、咄嗟に「えっ?」という表情を作ったが。それが見え見えの取り繕いであることは、さすがに彼女も見抜いていた。 「気になってるんでしょ? さっきからちらちら見てるもんね。この、手首の包帯……」  ズバリと核心を突かれて、いささか私も戸惑ったが。ここは、逆にその件について確認するチャンスだと考え直した。こういう局面でアタフタと動揺してしまうようでは、とても彼女と付き合っていくことなど出来ない。私を頼りにしてくれている、彼女の期待にも応えなくては。 「ああ……やっぱり、君も気がついてたか。意識して見ないようにとは思ってたんだけどね。でも、職業柄、どうしてもね」  核心を突かれたお返しに、今度はわざと自分から告白した。見ないようにと思いつつ、その手首を目で追ってしまっていたことを。続けざまに彼女に色々と見抜かれては、彼女が私を必要としているという関係が危うくなりかねない。これで、先ほどのいわば先制攻撃で、少しばかり私より優位に立っていた彼女の立場が、再び私と均等になった。そして、私は年長者らしい落ち着いた口調で、彼女に訪ねた。
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