手首

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「どうしたんだい、それは。何かで切ったのか、それとも……」 「それとも?」  私の言葉を聞いて、彼女は悪戯っぽく笑った。 「ほんとはわかってるんでしょう? なぜ、包帯を巻いてるのか……」  それは、どうしてもその「原因」を私から言わせたいという、彼女の意思の表れなのだろうと思った。それでいて、私を責めるような様子は微塵も感じられない。それは私にとって本当にありがたい事でもあったが、逆に私の良心を責め立ててもいた。「わかっているんでしょう?」恐れていた通り、その傷はやはり、私のせいなのだと。でも、それを責めたりはしないわと。そこまで私を頼ってくれている、彼女のそのまっすぐな気持ちが、私には痛かった。 「すまない……」  私は素直に詫びた。例え彼女が責めなくとも、私がその責任から逃れる事は出来ないのだ。さっきまでの「対等な立場」は、一瞬にしてガラガラと崩れ去っていた。ここは素直に謝っておくべきだろうという、計算からしたことではなかった。別の理由、例えば彼女が私を脅かそうとしたとかいう理由だったら、そのまま二人の対等な立場を保ち続けただろう。しかし今はただ純粋に、彼女に謝りたかった。 「やだ、謝んないでよ! 元々私がこうしていられるのも、あなたのおかげなんだから」  その彼女の言葉が、また私の胸に突き刺さった。それはその通りなのだが、彼女にはそれを責める権利はあるのだ。私がこれまで彼女に、してきた事に対して……。
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