prologue 〜主従契約

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prologue 〜主従契約

 児童館の裏庭で、僕は泣いていた。  小学校に入学して間もない薄曇りの日。むきだしの下半身に、春の風が冷たかった。  おもらしをしたわけじゃない。  一緒に遊んでいた友達に、ズボンとパンツを取られたのだ。  僕にはわけが分からなかった。  児童館の裏庭で、けいどろをして遊んでいた。1年生から3年生の男子6人。警察と泥棒を入れ替えて何ターンかを遊び、「ちょっと休憩」と言ってそれぞれ自分の水筒から水を飲んだ。そのときに突然、3年生のふみくんが言いだした。 「智尚(ともなお)ってさ、いちごのパンツはいてるだろ」  びっくりして見ると、ふみくんはにやにや笑っている。 「はいてないよ。それ、さーちゃんのだよ」  さーちゃんは当時まだ3歳だった妹だ。トイレトレーニングというのをしていて、失敗ばかりするので、いつも家のベランダにはいちごや水玉模様のパンツが何枚も干してあった。 「へえっ、智尚パンツはいてないんだ?」  他の子が言って、みんなは笑ったりはやし立てたりして、僕をからかった。  そのうちに誰かが、 「はいてるんなら見せてみろ」 と言い、 「イチゴのパンツなんだろ!」 と笑い、みんなは5人して僕を仰向けに倒して、いやだいやだと暴れる僕からあっさりとズボンとパンツを奪い取った。  僕は恥ずかしくて、Tシャツをいっぱいに伸ばして足の間をかくした。 「なーんだ、普通のパンツじゃん」 「つまんねーなぁ!」  そんなことを言い合いながら、なぜかみんなは僕のパンツとズボンを持ったまま、走り去ってしまったのだ。  取り残された僕は悲しくなって、べそをかいた。涙をぬぐうために手を離すと、のばしていたシャツが上がって股間が丸見えになる。  女子にでも見られたら大変だ、そう思ってプレハブの物置とブロック塀の間の狭い空間に隠れた。そこは日当たりの悪い中庭の中でも特に暗く、じめじめしていて足元にはドクダミやなんかの雑草が茂っていた。しゃがむと裸のお尻がその雑草についた虫なんかに触ってしまいそうで、僕は立ったまま泣きながら、ひたすらに誰かが助けてくれるのを待った。  ちょっとふざけただけだから、もう少ししたら誰かが返しに来てくれるだろう、もしかしたら先生が探しに来てくれるかな、そう期待して待ったけれど、仲良しのあっちゃんもはるくんも、僕を迎えに来てはくれなかった。
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