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男には娘がいた。病院の個室で日々の治療と緩和ケアを受けながら、苛烈な痛みに苦しむ父親との残りわずかな日々を惜しむように献身的に、身の回りの世話を続けていた。
高名なミッション系女子大に学ぶ彼女は、子供の頃から親一人子一人で厳しく育てられていたと思う。しかし父娘の関係は仲むつまじく、ときには齢の離れた恋人同士であるかのように、ひとから思われることさえもあった。
父親は美しく成長した娘を愛し、娘も厳格な父を恋人のように慕っていた。
今日もまた、娘は講義が終わると友人たちの引き止める声を振り切り、道すがら必要な買い物を済ませて病院へ直行した。
ナースセンターへ挨拶に訪れると、担当の看護師から現在の状況を説明され、担当医から家族に話があると伝えられた。
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