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 男はまだ五十にも手が届かない年齢だった。一流大学を卒業し、難関の公務員試験を突破して、某省の高級官僚への道を歩み始める。  エリートとはいえ彼の実家は然程(さほど)裕福な所帯(しょたい)ではなかったから、贅沢な生活もせず、同僚たちと同じ官舎の慎ましやかな部屋で地味な生活を営んでいた。  その頃、大学で出会い交際を続けていた彼の後輩である彼女は、駆け出し役人の彼の質素な生活振りにも気にする素振りも見せず、二人の交際は順調にすすんでいた。  彼女もまた、娘のような華やかさを天から授けられたかのように、美しくも気高い女性だった。  多くの男性から思いを寄せられてはいたが、彼女の纏う清純のヴェールは、彼女の純真を汚すことを許さなかった。
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