カッコウの巣立ち

Ⅱ

　二人の交際は、彼女の妊娠によって突然の終わりを告げることとなったが、無論彼の誠実さは、二人の関係を結婚生活へと変化させた。彼が二十五歳、彼女は二十三歳を迎えたころである。
　二人の人生はありきたりな、しかし幸せなレールの上を滑り続ける人生に思えた。安定した生活と、将来を約束された人生、優しく賢い夫と美しく純真な妻の、若い夫婦が奏でる充実した新婚生活はこうしてはじまった。

　娘が生まれると、仕事に邁進(まいしん)する夫と育児に勤(いそ)しむ妻との間にはすれ違うことも多くあったが、夫は出来るだけ妻と二人だけになれる時間を作る努力をして、小旅行や世間で名を馳せるアーチストのイベントへも仲睦(なかむつ)まじく出掛ける、二人の幸せそうな姿を誰もが羨望(せんぼう)のまなざしで見送った。
　誰もが羨(うらや)む幸福の絶頂を見せつける二人は、人生を謳歌(おうか)し最大限に楽しんでいた筈だった。
　その矢先、美しい妻は突然に失踪(しっそう)した。