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 男は死を迎えようとしていた。彼には死神の気配さえも感じられる気がしていた。  彼の足元には薄い(もや)のような、黒い霧のようなものが見える気がしていたが、医者は老化と衰弱からくる視野狭窄(しやきょうさく)だろうと言った。  しかし男は、それが例え死神であったとしても驚きなどしなかったのである。悪魔に魅入られた呪われた人生に終焉(しゅうえん)が訪れる時を、彼はずっと待ち望んでいたのだから。
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