Ⅲ. Shooting!

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「よくわかんないけれど、カップル成立? ていうかもともと全校生徒公認だと思うけれど。男子の冷やかしだって、つまりそういうことでしょ。ふたりのあいだに入り込めないから、外野から声をかけるんだよ。あ〜、こういう脚本書いたらいいのかな」 「なあに、メイちゃん。演劇部のためにわたしたちをダシにしようっていうの? そのために遊びに来てたの?」  冬夕が上目遣いにメイのことをにらんで、指差す。 「いやいや、そんなことはないよ。ただ、新しい台本が煮詰まってる」  露骨にあわてる谷メイ。本当はネタ探しにきていたな? 「煮詰まっているならいいじゃない」  冬夕に指摘されてメイはぽかんとした顔をする。 「なんで、よくないよ。台本がさっぱり先に進まない」  聞けば、秋の学園祭に向けてオリジナルの脚本を作っているらしい。政治的に正しくて新しいヒロイン像を描きたいらしい。 「それは行き詰まるだね。煮詰まっているならもう少しでできあがるってことだよ」 「さーすが、冬夕はあったまいいね!」 「そうやってごまかさない」  指差すポーズをとっているけれど、メイの顔は焼けた肌でも分かるくらいに真っ赤だ。 「でも、わたしたちも行き詰まっているんだよね」 「へえ、めずらし。うまく作れない?」 「ううん、違うの。フィルグラのアカウントをとったのだけど、なかなか素敵な写真が撮れないんだよね」  そう、わたしたちの目下の悩みは商品写真の撮影だった。わたしのママに頼めば、ライティングのしっかりした撮影セットを用意してもらえる。ただ、紅茶のコーディネート写真はカメラマンにお願いしているから、カメラなどの機材は任せっきり。  そのうえ、わたしたちふたりには、どうも絵心みたいなのがないみたい。わたしはともかく、冬夕が写真を撮るのがへたくそだったのが意外だった。スマホで撮影してみるんだけれど、実物より数段見劣りしちゃって、がっかりするんだよね。 「え、それなら、ヒーコがいるじゃん」 「誰? ヒーコ」 「文系のB組。写真部の高階柊。あたし、友だちだから呼んでくるよ。待ってて」  いうやいなや、家庭科室を飛び出してゆくメイ。 「友だち多いのな」  静かになった家庭科室でわたしたちは、お互いの顔を見合わせる。  そして見つめ合ったまま沈黙をする。ごくりと唾を飲み込む。意を決して切り出す。 「さっきの」 「うん」 「大学の」 「うん」 「がんばるよ」 「うん。わたしもがんばる」 「うん」  窓の向こうを見る。音もなく人が走り、ゆっくりと雲が流れる。鳥の飛ぶ影が窓際に一瞬、よぎる。
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