Ⅰ. Proudly!

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 わたしたちはそれから杉本のブラをつくることに専念をした。大半は冬夕が作業をした。わたしは、ブラひものレースの装飾や、ホックの部分、そこはストライプの生地を使用する、そういった細かい作業を担う。  なんとか夏休みの前にはそれを仕上げたかった。期末テストに差し掛かっていたので、分担しながら、結局、その時期は杉本のブラを制作するので手一杯だった。  期末テストが終了した日、わたしたちは家庭科室にペナントをさげる。  コンコン。  控えめなノック。  少し、ペナントは揺れたかもしれない。 「こんにちは」 「こんにちは、さとみちゃん。こちらに座って」  冬夕が不織布の袋から、ラベンダー色のブラジャーを取り出す。 「えー」  口元をおさえる杉本。 「かわいい……」  そのひとことにほっと息をつく。 「でも、これ、わたし、入るかな」 「準備室で試着しよ」  冬夕は杉本を隣の部屋にうながす。  わたしは、その間、じっとして待っていた。  やがて、はにかみながら杉本が出てくる。わたしは立ち上がって彼女を迎える。 「雪綺ちゃん、どうかな?」 「すごく、すっきりした」 「そうなの!」  杉本は瞳を輝かせて、あとから出て来た冬夕の方を向く。 「とっても快適なの」 「よかったあ」 「なんだか、制服がひとまわり大きくなっちゃった。ぶかぶかして、おなかのあたりがすかすかするよ」 「少し、背筋も支えられると思うから、楽になるんじゃないかな? そのことを意識すると姿勢ももっとよくなるよ。向こうに鏡があるから見てみて」  杉本は飛ぶようにそちらに向かい、左右に体を振って、全身を眺める。 「すごいね。全然違うんだもん。わたし、やせちゃったあ」  確かに胸の印象で、体のラインの見え方も変わってくる。 「このまま、つけて帰ってもいい?」 「もちろん」 「ありがとう。えっとふたりはなんていうんだったっけ?」 「スクープ・ストライプ。スプスプ」 「スプスプ! ありがとう! きっとまたオーダーしちゃう」 「うん。夏休み中にたくさん作る予定だよ。それが出来上がったらオンラインショップもはじめるつもり」  杉本は、きらきらした瞳でわたしたちを見る。 「すごいすごい! 絶対すごいよ! 友達に自慢しちゃう。スプスプ、すごくいそがしくなっちゃうよ」 「うふふ。嬉しい。さとみちゃん、ブラにひとこと刺繍も入れているから、あとで見てみてね。スプスプからのメッセージ」  うん、と答えて杉本は家庭科室をステップを踏むように出てゆく。  わたしたちはグータッチをする。  ペナントをおろし、今日の営業を終了する。テストも終わって、ものすごい開放感に浸っている。 「打ち上げといきますか」 「そうだね。今日はどこにしますか?」 「もちろん、ムーン・コーンズ」 「トリプルスクープにしちゃおっかな」 「わたしも」  わたしたちは、行きつけのアイスクリーム屋さんに向かう。テスト明けで、ウチの生徒でごったがえしているだろう。人気のお店だから、立ったまま、カウンター席で食べることになるだろう。フレーバーはどんな組み合わせにしようかな?  昇降口を抜ける。強い日差しが目を射る。梅雨はもうじきあけるだろう。  いよいよ夏休みに突入だ。  わたしたちは、たくさんのブラをつくるつもりだ。 「雪綺、わたしもブラ、欲しくなっちゃった。つくってもらえる?」 「もちろん。あ、でもまた採寸しなくちゃだな。冬夕さんは成長期ですから」 「あー。太ったって言いたい? これからアイス食べるのに」 「全然。だって、ほら、わたしと身長いっしょになったじゃん」  冬夕は立ち止まり、わたしの目をじっと見る。そして、 「ほんとだ」  そう言って、手のひらでふたりの頭のてっぺんを測ってみる。 「雪綺の瞳がまっすぐ見られる。わたしね、雪綺の目の形が好きよ」  アーモンドの瞳がまっすぐにわたしを見据える。 「え、わたしキツネ目じゃん」 「オリエンタルな瞳だよ。切れ長でとってもかっこいい」  わたしは照れてしまって、はにかんでうつむく。冬夕の瞳がアーモンドの形で、素敵だってことを伝えそびれる。ううん、伝えなくちゃ。  わたしは、まっすぐに冬夕の瞳を見る。 「わたしは冬夕の瞳が好き。アーモンドの瞳。憧れる」  冬夕は、はっとした表情を浮かべる。その瞳が大きくなる。目を見据えたまま、わたしの手を取り、歩き出す。 「トリプルスクープにしなよ。わたし、おごっちゃうぞ」 「それなら、わたしも君にアイスをプレゼントしよう」  手を繋いで、わたしたちは笑い合う。  風がびゅう、と背中を押す。木漏れ日が細かい拍手のように揺れている。  <スクープ・ストライプ Ⅰ. Proudly! おわり>  *** <参考文献> ハヤカワ五味 「私だけの選択をする22のルール あふれる情報におぼれる前に今すべきこと」 マララ・ユスフザイ 「わたしはマララ: 教育のために立ち上がり、タリバンに撃たれた少女」
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