Ⅱ. Sparkle!

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 わたしたちは、それからようやくミシンを取り出して、ブラジャーの制作をはじめる。集中していたから、あっという間に時間が過ぎてしまう。 「やば、冬夕。閉門の時間になる」 「あー。絶対、待ち構えているよね。なんか出し抜きたい気分」 「じゃあ、わたしと勝負しようよ。どっちが早く校門を抜けられるか」 「手芸部員が元陸上部員に勝てるわけないでしょ」 「でも、嫌味言われるの嫌じゃない?」  冬夕は上目遣いをして、わたしを見る。そんな時も瞳はアーモンドの形を崩さず、とびきりにかわいい。 「オーケー。でも、ハンデをちょうだい」 「いいよ」  はい、と言って、冬夕の大きなトートバッグを手渡される。 「なにこれ! めちゃ重いじゃん!」 「ハンデ戦っていったでしょ。レディ、ゴー!」  いきなり走り出す冬夕。わたしは慌てて追いかける。ていうか鍵返さなくちゃいけないじゃんか。 「ヘイ、カモーン!」  しっかり職員室の方に向かっている冬夕。伊藤先生に慌てて鍵を返す。 「お疲れ。松下雪綺。三角冬夕。ってなんだ、もう行くのか?」 「魔法が解けちゃうんです」 「鐘がなっているんです」 「気をつけて帰りなさい!」  背中にかかる声に 「はーい!」  わたしたちはそろって答えると、そこからまた校門目指してダッシュをする。案の定、学年主任が校門で待ち構えている。  わたしたちは、さらにスピードをあげる。 「さよならあ!」  呆気にとられる先生を横目に、わたしたちは大きな口を開けて、ぎゃははは、と笑う。 「さっすが雪綺。ハンデをものともしませんね」 「冬夕こそ、結構走れんじゃん」  すると突然、冬夕はしゃがみこみ、たはは、と力なく笑う。 「どうした?」 「めっちゃ、こぼれた」  何が? と思ったけれど、経血か! 「大丈夫? 冬夕、明日無理しない方がいいのじゃない」 「うん、そうかも」  わたしたちは、そのあとはそろそろと炎天下の中を歩いた。少し日は傾いているのに容赦ない湿度と熱風。  その夜、わたしのスマートフォンに届いたのは、ぐったり寝込んでいるロップイヤーのイラストのスタンプ。冬夕のお気に入りのキャラクターだ。  わたしは、眉の太いクマが花束を抱えているスタンプを送る。  結局、生地の買い出しに行けたのは、それから三日後のことだった。 「調子よくなった? 冬夕」 「おかげさまで、一番重い日はやり過ごすことができたよ。ごめんね、雪綺」 「そういうの謝らない。わたしたちもブランドやるからには、きちんと生理休暇も入れましょう」 「うん。そうだね。生理休暇って労働基準法に明記されているんだもんね」 「あ、そうなの?」 「そうらしいよ。わたしもちょっとずつ法律の勉強しているんだ」 「冬夕は、えらいね」 「えらくない。でも、スマートさがスタンダードの世の中になってほしい。反知性主義って必要なこともあるらしいけれど、そっちがスタンダードじゃ困ると思うの。  スマートさはありつつ、でも、多様性も担保して各々が満足している社会。必ずしもみんなが完璧な幸福の中にいないかもしれないけれど、少しずつ他人の痛みを引き受けられる社会。  そういう意味でのスマートな社会になって欲しいし、そういう活動をわたしはしたいんだ」  わたしは、そういう宣言をする冬夕のことをまぶしく見つめる。こういう女の子がわたしの親友であることを誇らしく思う。
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