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わたしたちはテーブルの隅っこに場所を見つけて、それぞれ、トールサイズのフラペチーノを手に腰掛ける。
「ここまで合わせたら完璧でしょ」
冬夕が選んだのは、ルビーチョコのフラペチーノ。ピンクの配色がコーヒーカラーによくマッチしている。
テーブルの先、窓の向こうはテラス席になっていて、そこにもおばあちゃんたちがわんさか集まっている。その中に、見覚えのある顔を見つけた。
「あ、自転車屋のおばちゃんだ」
「どれどれ? あ、ほんとだ。あれ、誰かといっしょ、もしかしてデートじゃない?」
自転車屋のおばちゃんも(ていうかおばあちゃんだけど)白髪にパーマをあてておしゃれをしている。隅っこの方で、男性、こちらも白髪にポロシャツ、ループタイをしていて、とてもおしゃれだ。
威勢のいい感じのおばちゃんが、今日はおしとやかにストローでコーヒーを飲んでいる。
「ふうん、これは間違いなくデートだね」
「なんか、この近くって、おじいちゃんおばあちゃんの集会場でもあるのかな。検索しよ。あ、なんか、有名なお寺があるみたい。ウォーキングコースがロマンティクロードって言われているらしいよ」
ひと休みを終えて、わたしたちは家路につく。
「自転車パンクしないよね」
「そしたら、あのおばちゃんに修理してもらおうよ」
日差しは容赦なく照りつける。無言で自転車を漕ぎ続けるわたしたち。汗びっしょりで帰宅した。
すぐさまシャワーを浴びて、さっぱりしたあと、リビングで今日の釣果を物色する。
うんうん、素敵な素材。風呂上りだし、いいかな、ほおずりしちゃおう。
「いい生地には出会えたの?」
うっとりしているわたしにママが声をかける。
「うん。ばっちし」
「それはよかった。わたしも新しい夏物、オーダーしよっかな」
「まいど〜。ショーツも作りはじめたけれどいかがですか?」
「まあ、じょうずね。でもそれも欲しい」
「サニタリー用もはじめたよ」
「ほんとに! わたしもあなたたち見習わなくちゃいけないわ。個人事業主、知識をアップデートしていかないと、どんどん流行に遅れてしまうからね」
それを聞いて、そうだ、と思い出し、ママに尋ねる。
「わたし簿記を覚えたいんだけれど」
ママが一瞬立ち止まり、ああ、と言って答えてくれる。
「ショッピングもはじめるんだったわね。動画でいいのがあるから、URLをスマホに送っておくわ。テキストも持って行ってあげる」
「サンキュー」
わたしは、汗まみれのバッグをひとまず、乾かすためにハンガーにかける。
「そういえば問屋街のカフェで自転車屋のおばちゃん、ていうかおばあちゃんか。見かけたよ」
「ああ、サイクルオートさんの。元気になったのね」
「病気でもしたの?」
「ううん、旦那さんをおととしかな、亡くされてね。まあその旦那さん、おじいちゃんはずっと寝たきりでお店に出ていなかったからわたしもよくは知らないんだけれどね」
「ふうん。そうなんだ」
わたしは、それ以上その話を続けることをやめてしまった。
広げていた布地を集めて、部屋に引っ込む。
おばあちゃん、旦那さんを亡くして寂しかっただろうな。でも、長く連れ添ったのに、数年で、もう恋をしているなんて、なんか、なんだろう。少し、もやもやするな。
「うーん、いいのかな。いいんだろうな」
わたし、将来を考えるとき、隣にいるのはいつも冬夕だ。同じアトリエで制作に励み、同じマンションにいっしょに帰る。
「夢、かなあ」
もし、冬夕が死んだら、きっと誰とも結婚しない。そう思う。そういう風に考えることって、若さ、アオハルってやつなのかな。
アトリエから離れた場所も想像する。そこは砂漠で、わたしたちはブルカを巻いている。冬夕が現地の言葉で、女の子と話をしている。きっと社会貢献の活動をしているに違いない。わたし、その場所で役に立ってる?
でも、わたし、役に立たなくても、冬夕とずっといっしょにいたいんだ。ずっと一途でいたいんだ。
そうじゃない自分は、なんだかちっとも自分じゃないような気がする。
「わたし、冬夕が好きだなあ」
ベッドに横になる。
明日も冬夕に会う。
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