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メイはうつむいて、うなずきながら答える。
「うん。ウィンターズの考えることは、すごいよ。あたし、素直に尊敬するよ。それは君たちのお母さんのためにしていることなんでしょう?」
わたしは冬夕と目配せをする。冬夕が口角をあげて笑顔をつくる。
わたしはうなずいてから、メイに向かって答える。
「最初はそうだった。もちろん、今だってママたちのために作るよ。だけど、もうそれだけじゃない。みんなにやさしいブラを作りたいと考え始めたんだ。だからスクープ・ストライプを立ち上げる」
「めちゃ、かっこいいな。スクープ・ストライプ、スクスト?」
「うーん、わたしたちはスプスプって呼んでいるよ」
冬夕が答える。
「かわいい。スプスプ、いいね。あたし、張りきって宣伝しちゃう。で、そしたらあたしのブラも作ってよ」
「お、モデルになる?」
「あー。あたし、胸には、ちょっと、自信ないかな。へへ。ぺったんこだしなー」
「わたしもそう。でも、それじゃいけない? 胸がある人もない人も、失った人も、みんなおしゃれできるようにするのが夢なんだ」
「わたしたちスプスプのね」
メイはサムアップして家庭科室を出てゆく。わたしたちは互いに目配せして、ふう、と息をつく。
「あ、そうだ」
冬夕が両手を合わせて、忘れてた、と言って、かたわらのバッグの中から何やら取り出す。
「これね、作ってみたの」
「あ、これ、スプスプのロゴマーク?」
「そう、刺繍してみたんだけどどうかな?」
それは、Scoop Stripeの文字がオレンジとブルーの糸でしましまに刺繍されている三角形の布だった。なんだか懐かしい気持ちになる。
「こういうの、ペナントって言うんだって。おじいちゃんの家にいっぱい飾ってあってね、かわいいなあと思って作ってみたんだ」
わたしも見たことあったかな?
この三角形の旗をなびかせて、海に出発する光景が浮かぶ。
「船で海に出るみたいだ」
わたしは素直にそれを伝えた。
「スプスプ号、出航!」
わたしたちは、またグータッチをする。
ミシンの音がやみ、静かになった家庭科室にエアコンの音が低くうなっている。
コンコン……。
ミシンを片付けていると、控えめなノックの音が聞こえる。わたしたちは目配せをしたあと、
「どうぞ」
と、声をかける。
ガラガラと引き戸を引いて入ってきたのは杉本さとみ。谷メイのクラスメイトで、冬夕の去年のクラスメイト。
「さとみちゃん。ハロー」
冬夕が声をかけると、腰のところで小さく手を振って
「ハロー、冬夕ちゃん」
はにかみながら入ってくる。
「あの、ね。さっきメイちゃんに会ったのね。そしたら、なんだかすごいことをふたりがはじめるって聞いて。それで、相談があってきたんだ」
谷メイ、何をしゃべっているんだ?
「なあに、さとみちゃん」
「うん、わたし、あの、胸がね……」
わたしはすっと彼女の胸元に視線をおく。ふくよかな胸。何か病気とかのトラブルがある?
「胸が、大きくて困ってるの」
「ふうん。からかわれる?」
「それもあるし、えっと、痴漢される」
「は? どこで!」
わたしはいきり立って、立ち上がる。
「うん。自転車に乗っているとね、後ろからきた自転車の人とか、バイクの人とかに追い抜きざまに胸を掴まれるんだよね」
「許せない! それって警察案件でしょ」
「うん。そうなんだけどね。もう、そうされたら、怖くって声も出なくなってしまうの。それで、相談があるんだ」
わたしたちは、椅子を引き出して彼女を座らせる。
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