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「ほら、わたし、胸が大きいでしょ。それがいけないのかなあって」
「はあ? 胸が大きいのが悪い? 悪いのは痴漢する奴らでしょ! 100パーセント!」
「そう、なんだけどね。それとは別で、なんていうのかな、大きい胸をちょっと持て余してもいるんだ。もしかして、ふたりに相談したら、胸を小さく見せるブラとか作ってもらえるのかなー、なんて思って。それで、痴漢されなくなったらホッとするし」
わたしは、なんだかすごくもやもやしている。正直、わたしも痴漢に遭う。露出狂に遭遇したこともある。日本て犯罪率が低いイメージあるけれど、それって間違っていると思う。痴漢は性犯罪だし、いじめは暴行罪だ。なんていうか、じめじめっとしていて嫌な社会だ。
「もし、そういうブラを作れて、杉本の抱える問題が解決できたら嬉しいけれど、それって本当に解決になるのかな。それよりもさ、」
「雪綺、待って」
冬夕はわたしのことを手で制して、杉本の方を向く。
「さとみちゃん。わたし、さとみちゃんにぴったりのブラを作ってあげたいと思うよ。そのためには、採寸しないといけないけれど、わたしが測ってもいい?」
「あ、うん。もちろん」
「それなら決まり!」
冬夕が両手を胸の前で合わせる。
「最初に費用のことを話しておくね。わたしたち、ボランティアじゃないから、お金をもらうんだけれど、それでもいいかな?」
「もちろん! でも、あんまりお小遣いもないけど、……高い?」
「市販のブラと同じくらいはするよ。さとみちゃんはブラって自分で買ってる?」
「うーん、選ぶのは自分で選ぶけれど、その分は請求してる。下着はまだ買ってもらっているの」
「じゃあ、ママに相談してみて。オーケーなら、明日採寸しよう。えーと、場所はどこか探しておくね」
「冬夕ちゃん、ありがと。またね」
杉本はわたしに、ぴょこんと頭を下げてドアを開けて出てゆく。
冬夕は、両手を上げて伸びをする。そして、やった! とつぶやく。
「雪綺、スプスプとしての初仕事だよ!」
「冬夕、なんで、わたしのことを止めたの?」
冬夕は、あごに人差し指を当てて、うーんと唸ってから答える。
「あのね、雪綺。社会問題を解決するのは、とっても大事なことだと思うよ。わたしは賛成。絶対に声をあげなくちゃならない。でもその前に、わたしたちはスプスプのデザイナーだから、お客さんの納得するブラを作らなくちゃいけないと思っている。さとみちゃんが声をあげることは、たぶん必要。でもそれなら、わたしたちも身に覚えのあることだよ。ほんと最低の人たちは存在する。それも結構身近に。
だからわたしたちは必ず、ブラのひとつひとつにメッセージを込める。順番は、きっとそっちの方が先だとわたしは思うの。
戦うためのブラをいつか、わたしは雪綺といっしょに作りたいと思っている。でもその前に、目の前の友達を満足させたいの。そして、できることなら、その友だちと、わたしたちと、わたしたちのブラとで戦いたいの」
「戦うって何と?」
「うーん、そうだな。戦いは大きく分けるとふたつあって、まずひとつ目。
ブラジャーとか下着とかがね、性的なものとみなされることを排除したいの。生理用品とかもそうだけれど、それって普通にある生活のことじゃない? そういうことをいやらしいって男の人が、女の人もそうなんだけれど、感じなくなればいいと思うの。当たり前のことで、大事なこと。そうだな、性をもっとリスペクトしてほしい。そういう、価値観の平等みたいなのを世の中に浸透させたいって考えている」
「難しいけれど、分かる気がする。ふたつめは?」
うん、とうなずいて冬夕は続ける。
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