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あきらめきれなかったわたしは、もう一度、生地屋さんに出かけた。型紙のコーナーを見てもブラジャーのものはなかったし、書籍のところにもなかった。もうどうしたらいいかわからなくて、泣きそうだった。ううん、ちょっと泣いていた。泣くまいとしていても涙がこぼれる。
制服の袖で涙をぬぐって前を向くと、そんなわたしをじっと見つめる視線にぶつかった。泣いているところを見られるなんて、恥ずかしいと思いながら、その瞳に惹きつけられた。アーモンドのような瞳ってこういうのを言うんだ、とぼんやりと見惚れた。
わたしと同じ制服を着ているその子は、バッグからハンカチを取り出して差し出す。わたしは、それを受け取ると、もう、なんだか本当に悲しくなってしまって泣き出した。ハンカチは涙と鼻水でびしょびしょになってしまった。
ようやく落ち着いて顔を上げると、そこには、もうその子はいなかった。
ぐしょぐしょになったハンカチを広げた。そのハンカチは、たくさんの刺繍が施されているものだった。FMというイニシャルも刺繍されていた。
ハンカチの持ち主はすぐに判明した。隣のクラスの三角冬夕。面識はなかったけれど、確かに見覚えのある顔だった。
わたしは隣のクラスに赴き、彼女を探す。入り口付近にいた女子に冬夕のことを尋ねると、窓際で肘をついて外を見ている彼女のことを指差した。
わたしは、おそるおそる彼女の元に向かった。
「ハンカチを、ありがとう」
振り向くとそこにあらわれる、アーモンドの形をしたつぶらな瞳。
「どういたしまして」
冬夕がにっこりと笑う。
「あの、」
「なあに」
「そのイニシャル、刺繍」
「うん。刺繍」
「どこでしてもらったの?」
わたしは、そういう刺繍をしてくれるところなら、縫い物も教えてくれるんじゃないかって考えたんだ。
「これ、わたしが自分でしたの。三角冬夕、わたしの名前。あなたは?」
「わたしは、松下雪綺」
「YM。刺繍してあげようか?」
「ううん。そういうのどうやったらうまくできるようになるかな」
冬夕は、アーモンドの瞳を少し大きくした。
「もしかして手芸やりたい? それで布を見てたの?」
「そう、だけど」
冬夕はわたしの手を取って言う。
「一緒にしよう。わたし、縫い物得意だよ」
それが、わたしと冬夕との出会いだった。
「うーん、絶品! 雪綺のママの作るスコーンはいつだって最高だよ」
冬夕は、本当においしそうにスコーンをほおばる。クロテッドクリームとレモンカードが添えられている。紅茶の茶葉はアッサム。ほどよいコクがスコーンにぴったりだ。
「おかわりあるから遠慮なく」
ポットにかけるティーコゼーは、わたしの手作りだ。冬夕に手芸を習い始めた最初の頃の作品だ。キルトを用い、はじめてミシンを使って作った。
つたない作品ではあるけれど、とても思い入れがあって捨てられない。最初の作品にしては、よくできているし。
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