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でもね、なんか、そうやってこそこそ作っているのが、いやだったんだ。
悪いことなどしていないのに、恥ずかしいと感じなくちゃならないなんて、間違っているように思えた。それで、思い切って部活の時間にもブラジャーを作り始めることにしたんだ。
そのことは、瞬く間に全校生徒に広がった。男子たちが群がるようにやってきては、いきなりドアを開け、にやにやしながら
「ここは、ピンク色の匂いがするなあ! 失礼しました!」
なんて言って笑いながら去ってゆく。わたしと冬夕は堂々とやっていこうと思っていたけれど、部活から足が遠のいた子たちもたくさんいた。
わたしは悔しくて涙をこぼしたけれど、毅然としていたのは冬夕と伊藤先生だった。ジェンダー・フリーの思想から遅れていることをかえって嘆いていたくらいだった。
冬夕は、彼女のママの影響もあってか、政治的な思想をする。ノーベル賞の話も、本当に本気でしている。最年少受賞をすでに逸していることを悔しがっていたけれど、
「わたし、いけないな。ノーベル賞を獲ることを目標にするっていうのは、そういうことじゃないのにな。心を入れ替えなくちゃ。自分のやるべきことをやった結果でなくちゃいけないんだ」
ノーベル賞受賞者の自伝を読んで、泣きながら、でも力強く、そう語っていた。
「わたしのママも胸が大きいじゃない?」
冬夕の言葉にうなずくわたし。
「今は堂々としているけれど、学生の頃はやっぱり嫌だったんだって。だから、無意識に猫背になってしまっていたらしいの。ママは弓道を始めて、姿勢をしっかり立てることで、なんだか胸の重さが少し気にならなくなったって言っていた。それをヒントにしたいと思っているんだ」
お茶の時間を終えると、冬夕は型紙をつくりはじめる。雲型定規もいまでは自在に扱えるようになった。それと、人間の体のことを考えるとき、物理的な法則は知識として必須となった。だから、わたしたちは理系のコースを選択している。てっきり同じクラスになると思っていたのだけれど、最近、プログラミングとかAIとかの流行のせいか、理系志望の人が増えて2クラスになってしまった。それで、わたしたちはなかなかクラスメイトにならない。中学の頃から一度もいっしょのクラスになることがなかった。
冬夕が型紙を引く横で、わたしは授業の復習をしている。なにせ、元々の学力は高くないから、ぼーっとしているとあっという間に成績が下がってしまう。その点、冬夕はとても賢いから、がむしゃらに勉強しなくてもいつも上位の成績だ。それで、もし、冬夕と同じ大学にゆこうと考えるなら、わたし、すごくがんばらなくてはならない。ちょっとめまいがしてくるほどに。
冬夕は勉強のことは何もしゃべらない。彼女にとって、成績は結果でしかない。冬夕なら、もしかして平和賞じゃなくたって、獲得できてしまうのかもしれない。
「サンプルの型紙ができた。これは、ただこんな形がいいんじゃないかっていうだけのものだけれどね。明日、採寸してそこから本格的にスタートだね」
***
わたしたちは、部活中にスプスプのペナントを家庭科室のドアにかけ、ノックノック、という張り紙をした。やっぱりブラを作っているのはデリケートなことだと思うから。
コンコン、と控えめなノックが鳴る。
「どうぞ」
おずおずとドアが開かれ、杉本さとみが顔を出す。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
「どう?」
「うん、オーケーだった」
「それなら、早速採寸しようか。家庭科室準備室の鍵を伊藤先生に借りておいたんだ」
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