伯爵邸

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伯爵邸

 ステラ達がウォーレス伯爵邸へ到着したのは、陽も傾きかけた頃だった。  生まれ育ったクレイトン家は、領地の規模も屋敷そのものも決して広くない。  いや、部屋も余っていたし、晩餐室の他に朝食室もあるし十分な広さだと思っていたが、やはり貴族の邸宅としては狭かったのだとしみじみ思う。  身内といえば祖父だけで、使用人だって住み込みはケリーとコックの二人ばかり。  そんな自分たちには見合った大きさだったのだと、ステラは実感した。  今、馬車を降りたステラの前には円形に張り出した玄関。  到着を知らされていたらしく、外で立って待っていた執事によって開かれた両扉の向こうはずっと上の天窓まで吹き抜けのホールになっている。  装飾の施された大きな暖炉が存在感を醸し、どっしりとしたアンティークの応接セットが置かれていた。  歴史を感じる調度品の数々、代々の肖像画が掛けられた壁、その奥にちらりと見える階段室。  馬車が正門を抜けた時から、その整った庭園や見える屋敷の大きさに圧倒されていたが、中もまた予想に違わず豪奢だった。  出迎えの使用人だって屋敷の規模からいったら控えめな人数だろうが、クレイトン家のお仕着せよりずっと上質で洒落たものを着ている。  思わず目が泳いでしまったが、みんな頭を下げているし、帽子の広いブリムが隠してくれたと思いたい。  これが底辺あたりをのんびり繋いできた男爵家と地方の由緒ある伯爵家の格差かと、ステラは今更ながらに身につまされた。  まだ陽が沈む前なのに煌々と灯された明かり、色とりどりに飾られた季節には早いはずの花々……これらは『奥方様』の歓迎のために用意されたのだろうか。  もしこれが常の状態であるならば、慣れるのにだいぶ時間がかかりそうだと、ステラは小さく息を吐いた。  執事と家政婦らしき初老の男女二人が前へ進み出て、アランに手をひかれて邸内へと進むステラに腰を折る。 「お帰りなさいませ、アラン様。そして奥方様、使用人一同お待ち申し上げておりました」
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