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「ねえ、もしかしなくても今日から一緒に寝るの?」
「ご夫婦ですから」
「だってまだ顔を見てもいないのよ」
「そうですわね」
「……せめて、お話くらいしたいわ」
「そうなさいませ」
「ケリー……」
恨みがましく涙目で見上げるステラに、ケリーは少し眉を下げて安心させるような笑顔を見せた。
「お嫌でしたら逃して差し上げますよ」
ひとこと嫌だと言えば、この侍女が身体を張ってでも本当にそうしてくれることをステラは知っていた。
ステラの前に両膝をついたケリーはす、と真剣な眼差しに変わる。
「死んだも同じ身を救っていただきました。この身体動く限り、私ケリー・スマイスの忠誠はクレイトンのステラ様に。如何様にでもお使いください」
詳細が分からぬままの結婚にケリーはずっと反対をしてくれた。
それを制し、受け入れたのはステラだ。
それなのに、簡単に揺らいでしまう自分の不甲斐なさが情けない。
「ケリー、そんな必要はないの。でも……ありがとう。うん、大丈夫。ごめんなさい、少し動揺してしまったみたい」
「……御無体を強いられるようでしたら、容赦致しません」
「ケリー、大丈夫だから、落ち着いて」
半眼で力強く言い切る侍女を宥めているうちに、軽食とともに香り高いお茶がワゴンで運ばれてきた。
量は控えめながら、新鮮な野菜や丁度良い塩加減のハムが挟まれたサンドイッチと果物。
ゆっくりと食事を取り、お湯で旅の埃を落とす。
ようやく人心地ついた頃にはすっかり夜も更けており、戸惑いながらもステラは寝室への扉を開けた。
ゆったりとした広さの寝室に、これまた十分にゆとりある大きさの寝台は天蓋付き。
大人二人どころか四人でも五人でも横になれそうで、軽く目眩がする。
「これはまた、整えがいがありそうですね」
「ケリー、そういうことを言わないで」
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