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専属の侍女を同行することは、アランから先に連絡が入っていたようで、同じ階の北側に侍女用の一室が用意されていた。
サイドテーブルに明かりと水差しを置くと、何かあったらこれを、と呼び鈴の確認をしてケリーは自室へと下がった。
ステラはぽすり、とベッドに腰掛ける。
硬すぎず柔すぎず、いい具合に沈む寝台はさぞ寝心地が良いだろう。
結局、今の今まで旦那様と対面は果たされておらず、誰に聞いても言葉を濁すばかり。
噂の不安もある。迷いもある。
結婚していたことすら知らなかった。
――でも。
大好きだった祖父の顔を思い出す。
今際の際、すでに力の入らなくなった手で握り返してくれた。
もう、ほとんど見えなくなった目で優しく微笑んでくれた。
そんな祖父が繋いでくれた縁なのならば、きっと何か理由があるのだと思いたい。
かつて、クレイトンを訪れたミセス・フロストに話した『理想の結婚』がふとよぎって、ステラはふるふると頭を振った。
あれは、子どもの頃の他愛もない夢物語。
「……旦那様は、いついらっしゃるのかしら」
どんな人だろう。
どんな姿をしていて、どんな声で話すのだろう。
この結婚をどう思っているのだろう。
噂は、本当なのだろうか。
……好きになれるだろうか。
起きて待っていなくてはと思うのに、連日の移動は予想以上に体に負担だったようだ。
少しだけ、と横になったステラはその寝台の寝心地を堪能する暇もなく、深い眠りに落ちていった。
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