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亡くなった両親の分までも愛情を注いでくれていたのは疑いようもない事実なのに、まるで生まれてもいなかったような扱いをされていたことに対して違和感は拭えない。
しかし、確かにそれは見慣れた祖父の筆蹟なのだ。
「……くれぐれも、領民の方たちのことをどうか第一に」
「ああ、もちろん分かっているとも、心配には及ばない。それでステラ、お前の今後の身の振り方だが」
ほっとしたような表情の叔父の口髭の下で、少しだけ唇の端が歪んだ。
目線で合図を受けたタイラーが書類の束の中から一枚を取り出し、ステラに渡す。
「お前の結婚が既に成っている。迎えが来次第、そちらに発つがいい」
ステラの背後で、仲の良い侍女が息を呑む声が聞こえた。
驚きに目を見張ったステラの手の中にあるのは――自分の名前が書かれた婚姻証明書の写しだった。
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