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嫁入り道中
伯爵家からの迎えが来たのは次の週だった。
かかる時間と距離を考えれば、クレイトン卿が亡くなったと聞いてすぐに向こうを発ったものと思われる。
数日ゆっくりしてはとの申し出はにこやかに却下され、翌日にはウォーレス領に向かう馬車の中にいたのだった。
華美ではない贅が尽くされた広い馬車内はとても居心地が良く、長距離の移動用のためか座り心地も快適。
馴染みのない豪華さに最初はケリーと二人でそわそわ落ち着かなかったが、十日近くも乗り続ければすっかり慣れてくつろげるようになっていた。
執務室で告げられたあの日から出立までの一週間は、あっという間だった。
身一つでいいと伝えられたものの、使い慣れた身の回りの物や思い出の品くらいは持っていきたい。
そう思って荷造りを始めたが、生まれてからずっと暮らしていた屋敷の中はブラシ一つにだって思い出が詰まっている。
祖父との別れに参列してくれた方々への御礼状をしたためながらの荷造りは、何度も手が止まった。
合間に、ステラがいなくなることを知って屋敷を訪れた領民たちとも別れの挨拶を交わす。
急な代替わりに不安がっている彼らを宥めているうちに、自分の方の気持ちも落ち着いて来た。
それに、叔父の領民たちへの態度は多少強引ながらも誠実さがうかがえた。
変化は免れないが、そう悪いことにもならないようだと、やや安心した彼らの気がかりはそのまま方向を変えてステラに向くことになる。
頼もしくも穏やかだった前領主は、領民から信頼を寄せられていた。
その孫娘が嫁ぐとなれば、我が事のように気になるのが人の性。
親戚が新聞記者をしている者、王都の貴族邸に子どもが勤めている者、商いのついでにわざわざ噂話を集めて来た者……。
どこにそんな情報網があったものか、これは驚くところか嗜めるところかとステラが迷っているうちに、まだ見ぬ旦那様『ウォーレス伯爵』の人物像はあれよあれよという間に形作られていく。
そうして、あまりありがたくない情報がステラの元に集まった。
曰く――。
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