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プロローグ
今日はこの本にしようかな。
ベッドのお供に、私は最近読んでお気に入りの恋愛小説を手に取った。
主人公の女性が初恋の人との恋に破れて、傷つきながらも立ち直る過程で出会いに恵まれ、本当に愛されることの幸せを初めて味わいながらも、最終的には初恋の人との恋愛を貫く、いわゆる王道系の内容。
私はお気に入りのページを開ける。
気持ちを集中する。
文字が浮いてくるような感覚と吸い込まれるような浮遊感。ちょっと眩しい光が私の周りを包む。
日常とは全く異なる空間。でも既知感のある場所。
。。。よし、入れた。。。。小説の中だ。
主人公の女の子が、彼女を想ってくれる男性と別れて、初恋の人の許へと走りだすシーン。別れを告げられながらも、主人公の彼女を想い、背中を押すような台詞を言う男性が彼女の後姿をずっと見送っている。彼女は振り向くことなく、初恋の人が待つ場所を目指す。
やっぱり、いいシーンだ。
彼女を見送っていた男性と目が合う。
「本当にいいんですか、行かせちゃって?」
思わず、本の中のメインキャラの彼に声をかけてしまう。
エキストラの私だって、このくらいの声掛けは許されるよね。
彼は急に現れた私に驚きながらも、優しく微笑む。
「彼女が幸せならば。。。。。」
思った通りだ。彼は私の一押し。予想を裏切らない答えに胸を躍らせる。
見た目も私好み。予想以上。
彼は彼女が走り去った方向から踵を返す。
そう、私はなぜか小説の中にDIVEすることが出来るらしい。
最初は夢を見ているだけなのかと思っていた。
実際、朝、目が覚めればいつものリアルな世界に戻っているし。
でも夢って、目が覚めれば忘れるものでしょう?
今日のこの記憶は、朝起きても、ずっと消えない。
自分自身が経験しているからなんじゃない?
そう結論づけた時の感動といったら。
体験してるんだ。
だから夢じゃない。
この3カ月、ほとんど毎晩試してみた。
取柄らしい取柄のない私だけど、こんな素敵なことを経験できる能力があるなんて。新発見だ。これが最近のビッグ・サプライズだった。
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