プロローグ

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私は普通に会社勤めをしているから、通勤時間が結構かかる。 片道1時間、帰りも含めればトータル2時間。1日の1割弱を電車の中で過ごす計算になる。 その通勤時間に何冊もの本を読んできた。ジャンルに拘りはない。 ちなみに紙の本がしっくりくる。 恋愛、ファンタジー、ミステリー、SF、サスペンス。 新しいものから古本屋でピックアップしたものまで、何でもござれ。 感情移入出来るものから、ただ楽しかったり、ちょっと勘弁って思う内容もいろいろで。でも眠る前に読んだ本の内容がよく夢に出てくるなって思うようになったのは、実のところ、ここ最近だった。 夢の中でも、私は本の中の主人公や他の登場人物のような主要キャストにはしてもらえないようで、そのシーンにエキストラみたいに存在させてもらえるだけのようだった。 朝が来て、目が覚めれば現実世界に戻っているから、大きな問題もないし。 残業で疲れていたら、旅行のエッセイなんかがいい。自然に囲まれてリフレッシュ出来るから。実際にどっか行こうと思ったら、いろいろ調べて、誰と行くか調整してと事前準備が大変だけど、これなら一晩眠ればOKだから安いもんだよね。VR(ヴァーチャルリアリティ)と何が違うかって言われると微妙だけど。変なヘッドギアや充電も必要ないし、気持ち悪くなることもない。自然に優しいし、お財布にも、体にも優しい。いいことずくめ。 新刊本のお値段はちょっと高いけど、古本なら驚くほど安い値段で手に入ることもあるし。本の数だけについて言うなら、世の中に新刊なら毎日200冊出ていると言われているらしい。1ヶ月にすると約 6,000冊、年間にすると約 7万冊の新冊。読み切れるわけがない。中古本までいれたら、数字の桁が想像出来ない。ということは、私がDIVEすることの出来る世界は無限だと言ってもいい。 振り返って現実世界。 会社での私は入社5年目。さすがに新人とは言ってもらえなくなってきている。経営企画部という、ちょっとお堅い感じの部署で、事業計画や社長のプレゼン資料、業界の情報収集など業務は多岐にわたる。 最初は部署の雰囲気についていくのが大変だった。余裕なく、必死に業務をこなしているうちに、私は可愛げのある皆から愛されるキャラというより、どちらかというと気の強い、交渉相手としてはちょっと面倒くさい、一人で黙々と仕事をするキャラ設定になっていった。 それにあわせて、コンタクトを止めて、出来る女系のメガネにまでして武装している。なんで、こんなことになってしまったんだろうって思う時もある。 今となっては、壊せなくなる自分のイメージ。武装はどんどん厚くなり、身動きが取れなくなっていく。 その閉塞感から抜け出したかったのかもしれない。
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