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「こんなの異世界物なんだから、漠然とした東洋でいいんだよ」
今、読んでいるページでは、ちょうどトラックに轢かれて死んだヒロインが左大臣の一人娘・橘蘭蘭に生まれ変わって、周囲が満開の桜の下で爆竹を鳴らしてお祝いしているところだ。
しかし、本人はこの蘭蘭が生前楽しんでいた乙女ゲームの悪役で、皇帝・宝龍に入内するものの、最後にゲームの正ヒロインである中納言の娘・若葵に皇后の座を奪われて出家させられ、皇都の四つ辻で行き倒れの白骨死体になる運命だと気付く。
「で、悪役令嬢に転生したと分かったから必死でバッドエンド回避しようと動いて本来のゲームのヒロインよりも皇帝に愛されましたとかいう展開になるんでしょ」
シュッと微かな音がしてラベンダーじみた香りがこちらにまで漂ってきた。
どうやら新作の香水をまた買ったらしい。
「そんな陳腐な筋書きの本ばっかり書棚に何冊も集めて」
私のラノベ集めよりも姉の香水コレクションの方がよほど散財だと思うが、両親は最低限の外出以外は引き込もっている私よりも活発な姉にとにかく甘い。
「フィクションへの逃避は止めて現実を見なさいよ」
「分かった」
短冊に幸せに生きられる願いを託した俳句を記す蘭蘭の挿絵のページに栞を挟んで書棚に置く。
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