夏の日、夏の君、青空の中。

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8月1日、わたしは、家出を決意した。 自分 「うーんと、他に持って行くものは....」 散らかった部屋で、わたしは、タンスの中をあさる。 別に特別な理由があるわけじゃない。 でも、この窮屈な世界にいるのは、もう耐えられないから。 あ、安心して? 別に生き延びようとか、思ってないから。 ほら、その時は、その時。でしょ? 深夜、真夜中、11時。 町も、人も何一つ物音を立てずに、寝静まり返っている。 音を立てずに、ゆっくりと階段を忍び足でおりていく。 そーっと、そーっと。 見つかったら、計画は、台無しになってしまう。 そんな事になったら、もう 自分 「あっ!!」 階段を踏み外してしまった。 あわてて、扉の向こうを確認する。 少しだけ開けて。 ほっ良かった。 誰も、びくともしていない。 動いてるのは、お腹だけ。 すやすやと眠る、兄と姉がいた。 その横には、お母さん、お父さんもいる。 きっとみんなは、わたしがこんな事を考えてるなんて、思ってもみないだろう。 まあ、どうでもいいか。 自分 「よし。」 わたしは、自分に渇を入れるために、声を出した。 それにしても、11時って本当に誰もいないなあ。 人なんて、一人もいない。 車だって、通ってないし、灯りも、何一つ灯っていない。 まるで、わたし一人だけの世界のようだ。 怖いけど、楽しい。 楽しいけど、怖い。 けども、恐怖心より、好奇心が勝ってしまった。 わたしは、駅へと向かい歩きだした。 駅の中でさえ、人はまばら。 まあ田舎だしね。 いくら、人が少ないと言っても、こんな時間に小学生が歩いてるなんて騒ぎになってしまう。 だからわたしは、ちゃんと変装グッズを持っている。 背は高いほうだし、サングラスとリップを塗れば、大人に見えるだろう。 なるべく、下を向いて改札を通る。 大丈夫だ。 誰も見ていない。 このまま、階段を通っていけば、大丈夫。 行き先は、東京。 ここからは、新幹線でも四時間半かかる。 とりあえず、新幹線が来るのを、待とう。 自分 「あつっ....。」 こんな夜中からでも、夏の蒸し暑さは変わらない。 汗がだらだら出てきて、体が蒸されていくようだ。 周りにちらほらいる人も、わたしと同じ表情をしている。 まだだろうか。 意識がもうろうとする。 ゴーー。 良かった。 やっと来た。 周りにいる人が、新幹線に乗るわたしを見て、みな羨ましそうにしている。 アナウンス 「ドアが開きます。ドアが開きます。お乗りの方は.......」 涼しい....。氷の世界のようだ。 ラッキーだ。 この新幹線は指定席じゃない。 幸いなことに、中は、ガラガラ。 わたしは、窓側の前から二番目に座った。 ここまでくれば、問題ない。 後は、着くのを待つだけ。 発車音と共に、わたしは、眠りについた。 自分 「うーん。.......!」 わたしは、目を覚ました。 何時間寝ていたんだろう。 あたりは、すっかり明るくなっていた。 ふと、スマホを見る。 3時40分。後、二十分くらいで、東京につくのだ。 そう思うと、興奮がおさめられない。 思わず叫びたくなるのを必死で抑えた。 周りの人も寝ている。 冷静にならないと。 どんな感じ何だろう。 どんな匂いがするんだろう。 街は?人は?空気は? 楽しみだ。 こんな、気持ちは初めてだ。 アナウンス 「ドアが開きます。ドアが開きます。.......」 自分 「着いた!」 はっ。 何叫んでんの。 わたしの声でおじさんもお姉さんも、跳ね上がるように飛び起きた。 恥ずかしさで、頭を下げる事しかできない。 わたしは、逃げるように外へ出た。 自分 「う、うわあ。」 駅にいる人も、わたしの住む世界とはまるで違っていた。 目に映る全ての物がキラキラしてみえる。 お洒落な人や普通のサラリーマンの人。 ヘッドフォンをしている人や子連れのお母さん。 みんな、ちがう空気を出してる。 とりあえず、街に出てみたい。 わたしは、その場を駆け出した。 東京は、すごい人だかりだ。 人が多すぎて、道がまったく見えない。 まだ、朝の4時なのに。 音もすごい騒音。 頭の奥まで、響いてガンガンする。 人が密集していて、余計に暑い。 ボーとする。 とにかく、どこか座りたい。 その時、埋め着くされた視界に何かみえた。公園だ。 昔、よく遊んだような、遊具が少し錆びていてどこか懐かしい雰囲気がする。 誰もいない、公園の端にあるベンチに横になった。 わたしの意識は、そこで途絶えた。 .......何?、小さいくて幼い声。 男の子?女の子? 目を開くとたくさんの子どもが遊んでいた。 えっまさかずっと寝てた? あたりは、すっかりオレンジ色になっていた。 空は、燃えるような赤色。 夕方まで、寝ていたのだ。 とりあえず、立ち上がろうと足に力を入れる。 ? 「こっちへ来て。」 後ろを振り返る。 けど、誰も何も言ってない。 空耳? 再び歩こうとした。 ? 「こっちだよ。ねえ、聞いてる?」 やっぱりだ。 誰?どこにいるの? どこを見ても何もない。 ふざけてるの? ? 「穴。穴だよ。」 穴? 自由翻弄に振り回されてる自分が馬鹿らしくなってきた。 自分 「あっ!」 あった。草のしげみのなかに、マンホールぐらいの大きな穴が地面にあった。 こんなとこに何で穴? ここから、呼んでいるの? ? 「早く。ほら。時間がないよ。」 え? ここに入れって事? ? 「ねえ、急いで。」 もーう!どうにでもなれ! 自分 「えーい!」 わたしは、勢いよくまっ逆さまに飛び込んだ。 自分 「う、うわあー!」 真っ暗で、そこが見えない。 本当に、底があるのか? まさか、落ちた時痛くないよね。 ど、どうしよう。 自分 「わっ。.......ん?」 何だ。 思ったより、深くなかった。 周りには、何もない。 壁には、こけが生えている。 ここは、どこだ? そもそも、呼んでたのは、どこにいるの? そんな時、壁にある、窓のような物に気付いた。 わたしは、近寄って覗いてみた。 自分 「な、何あれ!」 丸い窓の向こうには、大きな金色?のお城みたいなのが、ある。 こんなとこに建物があったんだ。 人は、住んでいるのだろうか。 地面は、コンクリート。 街灯の灯りが炎のように、明るい。 それが、たくさんならんでいる。 外国にあるような、幻想的な建物。 ? 「こっちだよ。おいで。」 まただ。 どこ?どこにいるの? その時、窓の向こうに何やら、動物がみえた。 道の真ん中に立っている。 なんだ? 狐? 黄金色のふさふさした毛。 けど、しっぽは、丸くてウサギみたいなしっぽ。 あれがしゃべってたの? 狐のようなものが、口を開いた。 わたしに何かを伝えている。 けど、何かの騒音にかき消されて、聞こえない。 何て、言ってるの? 絶対、聞きそびれちゃ、いけないきがする。 謎の物体は、遠ざかっていく。 自分 「待って。行かないで。」 まだ、聞いてない。 ねえ、待って。 自分 「待って!」 視界には、真っ暗な空と伸ばしたわたしの手。 自分 「え!?」 ガバッと跳ね起きた。 夢? 誰もいない公園で一人夜まで寝ていたのだ。 自分 「でも、一回起きた!そ、それで変なのに呼ばれて。....」 まさか。 あれも夢? 何が現実で何が幻なのか、全く分からない。 あの穴も、あの生き物も、全部夢? 訳が分からない。 それに、何か伝えようとしてた。 何だったの? フューー 自分 「寒っ。」 真夏とは、思えない冷たい風。 そして、ふと気付いた。 ここ、すごく怖い.......。 街灯も灯りも、何一つない。 お化けが出てきたら....... そう思うと、背筋がゾクゾクする。 風に木の葉が揺れる音さえ、不気味で、足に力が入らない。 とりあえず、人気のあるとこへ行こう。 街に出るとコンビニがみえた。 良かった。 夜でも、人がこんなにいるんだ。 ほっとして、道端に座りこんだ。 樹 「どうしたの?」 驚いて振り返った。 そこには、いかにもチャラ男って感じの人がいた。 髪は、すごく発色のいいピンク。 ガラガラの服着てるし、ピアスなんて、何個空いてるのか。 身長は、結構高め。 目付き悪いし、何でわたしにしゃべりかけてんの? 樹 「えっと、おーい聞いてるー?」 自分 「あ、どうも....」 何だこの人。 樹 「君子供でしょ。家の人心配してんじゃないの?」 こんな見た目して、わたしの心配してる訳? わたしは、すごーく嫌味っぽく返した。 自分 「あー大丈夫です。別に心配する人いないんで。」 樹 「でも、家出でしょ?何してんの。」 自分 「何してんのって....別に何しようがわたしの勝手でしょ。」 樹 「んもー。フウー。」 彼は、呆れるように、ため息をついて、しゃがんでいたわたしの横にしゃがんだ。 自分 「何ですか。」 樹 「名前は?」 自分 「知りたいなら、自分から名乗んなさいよ。常識でしょ?」 樹 「ハイハイ。樹。じゅ、り。」 まるで、小さい子に喋りかけるように言った。 自分 「.......絆。」 樹 「へえー。絆ね。いい名前じゃん。」 自分 「どうも。」 樹 「たくっ。ほんと愛想ねーな。」 そんな事、生まれた時から分かってる。それにこんな奴にそんな事言われる筋合いはない。 自分 「そっちこそ。」 樹 「ここにいる理由は?」 唐突に聞いてきた。 自分 「特には。」 樹 「嘘じゃん。理由が無かったら、ここにいる事実について、どー説明すんの。」 これ以上は、ごまかしが効かない気がしたから、諦めた。 自分 「窮屈だったから。」 樹 「窮屈って?」 缶コーヒーを飲みながら、そう聞いてきた。 自分 「.......このままじゃ、もう、息が出来なくなりそうだったから。」 樹 「何がそんな辛いの?」 自分 「わたし、学校では、全部友達の意見に合わせてる。いつでも、どこでも、何でもいいよ。どれでもいいよ。.......」 気づいたら、胸の内をさらけ出していた。 樹 「何で自分の意見は言わないの?」 自分 「.......誰かに嫌な思いをさせるのが嫌だ。自分のせいで傷つく人がいたら、怖い。」 話し出すと、止まらなくなる。 樹 「.......。」 自分 「どう?臆病でしょ?」 樹 「でも、確かにさ、自分が死んだ後の世界と、今の世界が何にも変わらないと怖いよな。」 自分 「へ?」 びっくりした。意外だった。こんな、チャラチャラした奴が、こんな、弱っちいことを言うなんて。 樹 「自分がいなくなっても、悲しむ人が一人もいなかったら、怖い。」 樹の手は、かすかに震えていた。 寒い訳でもないのに。 でも、わたしには、震えている理由が分かった。 自分 「うん。そだね。」 ... 樹 「よし。ホテルでも、とってやるよ。」 いきなり、立ち上がってそう言った。 自分 「ホテル?」 樹 「ああ。どうせ、泊まるとこもねーんだろ?」 見下ろしながら、樹は、そう言った。 自分 「わあ!....」 そこは、まるで高級ホテルのようだった。 樹 「ここ、うちの親父が建てたホテルなんだ。」 自分 「へえ。」 それっきり、しゃべらなくなった。 変なこと言った?わたし。 樹は、黙ったまま大きな窓に近づいていった。 樹 「....」 自分 「樹?」 問いかけても、なにも言わない。 ただずっと、遠くを見ている。 その目は、どこか寂しく、今にも消え入りそうな目だった。 すると、口を開いた。 樹 「家の親父さ、俺がずーっと、小さい頃から夜帰ってくるのが、遅かったんだ。母ちゃんがいないから、その分俺のために働いてくれてることは、分かってたんだ。でもさ、」 樹は、また黙ってしまった。 樹 「あー!!!」 バフンッ 樹は、ありったけの声で叫んでベットに仰向けで飛び乗った。 そして、枕に顔を押し付けて、 樹 「あー!!!!!」 えっとー、何をしているのでしょうか。 樹 「はあ。」 今度は、全身の力が抜けたように、ため息をついた。 訳が分からず、その場に立ち尽くしていると、 樹 「プッアハハハッアハッひー腹痛え。」 わたしの顔を見てずーっと、笑ってる。 ベットの上で笑い転げてる樹の姿を見ていたら、だんだん腹が立ってきた。 自分 「な、何よ!何がそんなにおかしいのよ!」 樹 「ふうー。お前もやってみろ?スッキリするぞ?」 自分 「やる訳ないでしょ。そんな子どもみたいなこと。」 当たり前だ。 あんなバカみたいなことする訳ない。 けど、樹はすっとぼけた顔で、 樹 「だって、子どもじゃん。」 その通りだけどさ。 でも、....ちょっとやってみたい気はする。 樹の目を見る。 自分 「ちょ、ちょっとだけなら....」 ちょっとだけ。そう言い聞かせた。 樹 「おん。」 樹が初めて、優しく微笑んだ。 ベットに座る。 枕を押し当てる。 わたしは、ありったけの空気を吸った。 自分 「わー!!!!」 静寂が起きた。 樹が真横でボソッと呟いた。 樹 「でっけえ声。」 ここまで来たら、もう遅い。 思いっきり、お腹に力を入れても抑えきれなかった。 自分 「プッアハハハ!」 思いっきり、笑ってしまった。 横で呆然としていた樹も、 樹 「アハハハ!」 思いっきり笑った。 樹も、私も。 樹 「なあ。」 自分 「ん?」 二人、ベットで寝そべった。 樹 「叫んでみてどうだった?」 自分 「....うん。何かさ、」 樹 「うん。」 自分 「人生の悩み、全部馬鹿らしく思えたよ。」 天井に弧を描きながら、そう答えた。 樹 「そっか。叫んで良かっただろ?」 自分 「うん。」 わたしは、樹を見た。 樹の真っ直ぐな目は、この世の美しい物を全て詰めこんだような目だった。 とてもキレイだった。 樹 「おい、おい。起きろ。絆。」 頭の奥で、かすかな声が響いた。 自分 「うーん....樹、おはよ。」 樹 「おい、見ろ。」 樹は、カーテンを開いた。 自分 「?」 朝のまぶしい光が射し込んだ。 自分 「う、うわあ....」 わたしは、思わず感嘆の声を漏らした。 樹 「きれーだな。」 自分 「うん。」 それ以上の言葉は、出なかった。 山のてっぺんに上った朝日が光を散りばめて宝石のように輝いている。 それは、まるで樹の目のようだった。 自分 「樹の目みたい。」 樹 「は?俺の目?何いってんだよ。」 声だけでも、樹が照れてるのは、分かった。 でも、わたしは何にも恥ずかしいとは、思わなかった。 自分 「ねえ。」 樹 「何だよ。」 ちょっと、不機嫌な声。 自分 「こういうのを幸せっていうのかな。」 今、大切な人と美しい物を一緒に見ることができる。 それが、幸せなのかな。 樹 「なあ。」 自分 「ん?」 樹 「俺さ、行きたいとこがあるんだ。」 自分 「何?ここ。」 たくさんの木が並んでいる。 山?森?分からない。 けど、そんなとこ。 前をずんずん進んでいく、樹。 自分 「ねえ、ここに何かあるの?」 樹 「.....俺の大事なもの。」 何?大事なもの? わけわかんない。 それに、....どこからここに来たんだっけ? 全然振り向いてくれない樹にだんだん不安になってきた。 聞くか聞かないか。 なやんだあげく聞くことにした。 自分 「ねえ、じゅ」 樹 「ついた!」 何これ。 ちっちゃい神社みたいな。 樹 「俺のちっちゃい頃の夢がここに書いてある。」 そう言って、神社のような物の横にある、絵馬を指差した。 自分 「子どもを悲しませない、お父さんになる。って?」 まるっこい、乱暴な字。 でも、子どもながらに、丁寧に書いてるのは、伝わった。 樹 「そう。将来、こんな、人になりたいっていうのでさ。真っ先に思い付いたのがこれ。」 自分 「どうして?」 純粋な疑問だった。 でも樹は、思った以上に真剣な顔をした。 手に指が白くなるくらい力を込めた。 樹 「俺の親父は、全然俺の事を見てなかった。俺がいなくなっても、悲しまない。きっと。」 「そんなことないよ。」 そう言えば良かった。 けど、言えなかった。 今の樹に何を言っても、慰めにしか聞こえない気がしたから。 樹 「あ、そうだ!書こうよ、絵馬!持ってきたしさ。な?」 樹が、無理に明るく振る舞っているのが、分かった。 とても、気になった。 でも、無理には聞かない。 自分 「うん!書こう!」 でも、いざ書くってなるとなあ。 チラッ樹は、もう決めたみたい。 熱心にお願いを書いている。 自分 「うーん。あっ!」 樹 「よし。出来た。」 もう決めた。 これしかない。 わたしが、今願っているのは.... 樹 「書けた?」 自分 「....うん!」 樹 「なんて書いたんだよ。」 樹が、覗き見しようとしてきた。 わたしは、とっさに隠した。 自分 「ちょ、ちょっと見ないでよ。」 樹 「何だよ。見せてみろ。ほれ。」 自分 「やだよ。こういうのって、人に見せたら叶わないんだよ?」 樹が「ちぇーなんだよ。」とか言ってて、 「樹は、なんて書いたの?」 って、聞きたかったけど、樹の願いが叶わなくなったら、嫌だから、聞かないことにした。 わたし達は、夜までここにいた。 好きな食べ物は?とか、人生で一番悔しかった事は? とか話してたら、辺りは暗くなっていた。 この山の上からは、下に住宅街が見えて、とてもキレイな場所だった。 わたしはまた、「幸せってこういうことなのかな。」って思った。 その日、わたしの夏の思い出は、世界へ空へ溶けていった。 絵馬に書いた願いは、もしかしたら叶っているのかもしれない。 樹は、なんて書いたのかな? わたしと同じだったらいいな。 わたしは、今も永遠に願っている。 『今日がずっと、終わりませんように。』 これは、わたしが見た夢のお話。 ちっちゃな女の子と、大人の男の人のちっぽけな、人生。 この二人は、果たして幸せだったのでしょうか。 この二人の人生は、なんだったのでしょうか。 この二人に、大切なものはできたのでしょうか。 ちっぽけな人生。 でも、この二人が幸せだったらいいな。                                        終わり。
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