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第一章 新たな始まり
1. 刀の声を聴く魔物
ここは、南雫地方の『妖凛』という地域の小さな草原。
ここの草原一帯は、『妖草原』と呼ばれている。
草と風が微かに混じり合い、静かな音色を奏でる。
少し暗めの空の下、東側には『水精山』が、奥の太陽に照らされて顔を出す。
「東地の方は晴天なのか?」
私は、風向きを確かめるために指先を舐めた。
「西……だな。」
ということは風は東から西へと移動する事になる。ということは、
「晴れるな。」
そう呟くと同時に、強風が私の髪を揺らした。
強風は数秒間吹き続け、すっと静かになったかと思うと、目の前に黒い影が現れた。
(!?)
私は抜刀の準備をする。黒い影は喋った。
「俺は闇の化身、ヴェルバラ。お前の刀、闇夜月下を見せろ。」
(何故私が持っていると知っている……?)
私は瞬時に答える。
「見る前に目を潰されても知らんぞ。」
私はヴェルバラの方へと刀を振るうが、簡単に避けられた。
(ま、そうだろうな。)
「おっと。短気だなあ。はいはい。帰りますよ。」
「待て。一体何をしに来た?」
「だからお前の刀見に来たんだって。」
「何のために?」
その言葉を発する前に、ヴェルバラは空間の裂け目に入って消えた。
(ちっ。醜い魔物めが。異空間に逃げやがったか。)
「はぁ……。帰るか。」
私は妖凛の海を渡った向こう側にある、『妖月諸島』へと帰ることにした。
───────ソレカラソレカラ────────
私は妖月諸島にある図書館へと足を向けた。
私は妖魔図鑑と書かれた本を手に取り、パラパラとめくった。
ヴ、ヴ、ヴ……
「あぅた。ヴェルバラ。」
"ヴェルバラ 闇の化身であり、魔神に仕える。 異空間に生息し、地上に出ると、刀を見せろとせがむ。 刀の声を聴き、悪い所があったら無料で治してくれるただの良い魔物。"
(なんだ。心配することはなかったな。)
私は伸びとあくびを同時にした。
(さ、夕暮れ前に戻らないと白椿鬼に怒られるな。)
私は本を元に戻し、図書館を後にした。
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