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もう私には目の前の鉄棒しか見えなかった。
三度目の鉄棒をギュッと握り直す。手のひらの豆が、しっかり鉄棒を掴む。
これが三回目。そして最後。
腕で鉄棒をしっかり引きつけて
おへそを鉄棒からはなさないように
足を高く蹴り上げて
大丈夫、ちゃんとわかってる。全部できる。
えいっ!
三度目に蹴り上げた足は今までで一番高く上がって、鉄棒をくるりとまわり、体をフワリと持ち上げた。
それは初めて見た景色だった。
急に拍手と歓声が耳に入ってくる。グラウンドの真ん中にたった一人の私は、それを独り占めした。
鉄棒を降りるとみんなの待つ向こう側に走り抜ける。風がとても気持ちいい。
「桃ちゃん、できたね!」
私はうなずいてみきちゃんの隣に座り、続くみんなが逆上がりするのを待った。
ドクドクドクドク、やっぱり心臓の音はうるさくて、ここに小人がいて太鼓を鳴らしているんじゃないかと思った。
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