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「桃、逆上がりできるようになったか?」
ある日、パパに言われて私は下を向く。その話はあまりしたくなかったんだけどな。
うちの小学校の運動会では、毎年必ず一年生が逆上がりをするの。グラウンドの真ん中に四つの鉄棒が並べられて、笛の合図で順番に走っていく。そして、全員そこで逆上がりをしなくちゃいけないんだ。できなくてもいいんだよ。三回チャレンジして無理だったら、前回りして降りるの。私はそれでもいいと思ってる。だって、逆上がりなんてできるわけないじゃない。
「桜はすごかったよなあ」
パパがまたスマホでお姉ちゃんの逆上がりの動画を観てる。私も何回も何回も見たよ。
一年生のお姉ちゃんは笛の合図でタタッと駆け出して、鉄棒を握るとすぐにクルッと逆上がりをして、向こうに走り抜けていった。
私は年中さんだったけど、「お姉ちゃんすごいなあ」って思ったの、今でも覚えてるよ。かっこよかったなあ。
お姉ちゃんを見たら私もできるような気がして、やってみたんだよ。でもちっともだめだった。足で地面を蹴るんだけど、そのまま地面に落ちちゃうの。どうしてお姉ちゃんの足は鉄棒の上までくるんって上がるんだろう。
お姉ちゃんの逆上がりも、きっと小人が手伝ってるんだ。お姉ちゃんの足を持ち上げて、鉄棒にひっかけてるに違いない。私はできなくても仕方がないよね、だって小人はいないんだもん。
お姉ちゃんは小人を飼っている。
たぶんだけど……
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