姫!くせ者でござる!

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「事は急を要します。なぜ鼠めをいつもいつも取り逃がすのですか?」 「よもや、10日連日当家に侵入するとは、ハハッ!かような貧乏所帯に、いやはや!懲りぬ奴よ」 「いやいや、笑ってる場合ではないでしょ、ご家老!?」 ばあやさんは呑気に笑ってる家老を問い詰めるが、そのせいで、綾姫を取り押さえていた手が緩む。 「あらやだ、本当に笑ってる場合じゃないわ!口元から顎にかけて大人ニキビがいっぱい!」 姫様は手鏡に映る自分の顔を、まじまじと見つめている。 「ホラ、ご覧なさい!姫におかれては毎晩のご心痛が原因で大人ニキビまで!もうすぐお輿入れだというのに、すっかりおやつれあそばして……」 よよよ、と袂で涙を(ぬぐ)うばあやさんの横で、姫様は見つからないようにそうっと、夜食のチョコバターケーキとポテトチップスを敷き布団の下に隠す。 姫の行動に気づいた家老に、『ばあやには内緒!』と、ブロックサインを送る綾姫。 家老も同じくブロックサインで、『O.K.グッジョブ姫!』と返信した。 「何をやってるんです?大きな身振り手振りで?」 ばあやさんは、挙動不審の家老に気づくが、彼は咳払いを一つすると話題を変える。 「そのお輿入れの件ですがな。その大人ニキビもマリッジブルーが原因やも知れず……」 『いいぞ!いいぞ!三太夫!』と、喜ぶ姫様はばあやさんの後ろで、またもやブロックサインを出す。 「ご家老がこの(たび)の婚儀に反対なのは知っております。したが、この婚儀は我が藩の命運を賭けた──」 『だから、嫌なのよ!やれ、藩のためだの、お家のためだの、だからって何でが他藩のバカ殿に輿入れしなければいけないのよ!キイィ……!!』 姫様はまたもやブロックサインで、家老に激しく訴えかけてくる。 「なるほど、綾姫様の(まこと)のストレスの原因は、やはりこの婚儀の一件か……」 家老は顎に手をやり、何事か思案し始めた。
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