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「お約束通り鼠小僧を捕らえましたぞ!これで姫様も安眠できるというもの!」
座敷牢の前では、家老の三太夫が胸を張って、姫様を仁王立ちで待ち構えていた。
「三太夫が邪魔で鼠小僧がよく見えないわ」
「おお、これは失礼をば致しました。鼠めはこの通り牢の中。何の危険もございません。ささ、もそっとお寄り下さい。我らは御用があるまで下がらせて頂きます」
家老は5、6人いた家来たちに目配せすると、階段を上って退出して行った。
地下は蝋燭が何本も灯り、夜でもかなり明るい。
しかし、座敷牢の奥の暗がりに座り込んでいるらしい鼠小僧の顔は、姫様からはよく見えない。
「ねぇ、もうちょっと近くに寄ってお顔を見せて」
「……」
「大丈夫、叩いたりひどいことはしないから」
綾姫は恐る恐る格子に近寄ると、腰を屈めて牢の中をのぞき込んだ。
すると、音もなく何かが近寄る気配だけがすると、黒装束の男が1人、姫の前に平伏していた。
「お顔を上げてよ」
「あっしのような身分の者が、お姫様の御前に面を出せる筋合いじゃござんせん」
想像していたより、ずっと落ち着いた男らしい声に、綾姫はドキンとした。
「そんなことないわよ、わらわが見たいと言っているのに。それに鼠小僧は義賊なのでしょ?困っている人々にお金を分け与えるなんて偉いわね!なのに、どうして今夜は捕まったの」
「……天井裏に仕掛けられた『業務用・ハイパー鼠取りシート』にお縄になりやした」
そういえば、鼠小僧の黒装束には粘着剤のペタペタ光るものがいっぱいくっ付いてるなあ、と姫様は冷静に観察していた。
「三太夫が『対乳母殿秘密兵器を用意した』と言ってたけどこのことだったのね。それにしても、同じ武家屋敷に12日連続侵入してはダメよ!うちの藩は貧乏でこの屋敷にもお金になるものはたいしてないし。そのせいで、わらわも財力だけが自慢のバカ殿に輿入れするくらいなのよ……」
「存じております。そのくらい──」
ため息をつく綾姫に、鼠小僧は不意に伏せていた顔を上げた。
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