姫!くせ者でござる!

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「綾姫様が鼠小僧と駆け落ちして、はや、ひと月ですな」 「そうだな、ハッハッハッ!月日の経つのは早いものだ」 「とか何とか言って、呑気にお茶を飲んでいる場合ですか、ご家老!?」 若い家来は、本当にこのお家は大丈夫なのか、と何度目かの不安を抱いた。 「案ずるな、姫の居所なら分かっておる」 「なんと!?姫様は今、いずこに!?」 若い家来がギョッとして、家老に詰め寄ると、当の家老は何食わぬ顔で、手をパンパンと2回打った。 すると、シュン!と屋敷の庭に黒装束の忍びの者が現れた。 「うおッ!?我が藩にも忍者がいたのですか!?初めて見ました!」 「当然だ。敵を欺くにはまず味方から。わしの配下のことは限られた者しか知らぬよ」 「え?では秘密を知ったは……?ご家老!どうか始末しないでください!!」 何だか勘違いした家来は泣いて家老に縋った。 「お、落ち着け!誰もそちを始末する気などないわ!それで?姫様は変わらずご健勝か?ふむふむ?お肌のターンオーバーもバッチリ?おお!お顔の色も良く、お屋敷で過ごされていた頃より、はつらつとしておられるとな?ご苦労、引き続き姫には気づかれぬよう、お守り申し上げよ」 家老の命令に、忍者は報告を終わると、音もなく姿を消した。 「あと半年の猶予がある。それまでに姫様が健康を取り戻し、お屋敷に戻られればそれでよし。このまま長屋でお健やかに過ごされるもよし。どちらにしても、あの意地悪乳母殿の鼻を明かしてやれるわ!わっはっは!」 「乳母殿は姫様失踪以来、寝込んでいらっしゃるとか」 悪人顔で高笑いをする家老に、いくぶん落ち着きを取り戻した家来がご注進した。 「さもあろう!さもあろう!乳母一族は姫様のご寵愛をよいことに藩の(まつりごと)にまで口を出しおって!本来なら殿はわしのイケメンのひとり息子に、綾姫様を下さるお約束であったのに……!」 家老はその時の屈辱を思い出したのか、握りしめた拳をプルプル震わせた。 「鼠小僧を一目見た時、これはイケる!と思ったわしの勘に間違いなかった!なにせ、綾姫様は無類のイケメンヒーロー好き!しかも、正統派より止むに止まれず闇落ちしてしまったダークヒーローが大好きという通好みなのだ!フハハハ!何を隠そう鼠小僧こそが『対乳母殿秘密兵器』だったのだ!よいな、この件は決して他言いたすな。もし、誰ぞに漏らしたら──」 「あ、あい分かりましてございます!」 抹殺される……一言でも話したら抹殺される……。 上機嫌で羊羹を頬ばる家老を見ながら、若い家来は真っ青になって震え上がった。
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