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「くせ者だ!出合え!出合え!」
江戸時代、深夜の武家屋敷に怒号が飛び交う。
「ああ、今夜もまた出たの~?鼠小僧?」
綾姫は、家来たちのあまりの慌ただしさに、寝床からむっくりと起き上がる。
「姫様、お目覚めですか?」
「だって!眠れないわよ、ばあや!うるさいんだもん!」
控えの間の襖を開けて、そろりそろりとご機嫌伺いを立てるばあやさんに、綾姫は苦情を訴えた。
「おいたわしや、姫様。寝不足で、すっかりおやつれになって。10日連続、賊の侵入を許すとはご家老は何をやっておるのか……」
「ううん?ばあや、それより何だか口元がムズムズするの……」
「ハッ!姫様!それはよもや、大人ニキビ!?」
あわてふためく、ばあやさんが姫様に駆け寄ると、控えの間に続く襖とは別の正面の障子が、勢いよく開け放たれた。
「姫様!ご無事でございますか!?やや?乳母殿は、何故姫様を羽交い締めにしておるのか?」
姫様の寝所に駆けつけた家老の三太夫は、驚いて目を剥く。
「ですから!なりません姫様!大人ニキビを無闇に触るとばい菌が入って化膿します!」
「だってばあや!凄く気になって眠れないんですもの!」
真夜中に婦女子2人が布団の上で、何やら言い争っている。
「面倒くさそうなので、みどもはこれにて……」
老練な家老は、面倒事に首を突っ込むのはやめて、見て見ぬ振りを決め込むとそのまま障子を閉めようとする。
「あいや、待たれい!ご家老!なに1人で帰ってるのですか!帰るなら私も一緒です!」
だがこの時、素早く家老を見とがめたばあやさんが、姫様を押さえ込みながら家老を制止した。
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