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その時、また一本の矢がこちらへ飛んできて近くの地面に刺さった。
「やばいぞ、あの森に隠れるんだ」言うと同時に、俺たちは後ろに見えた森まで、約30メートルの距離を全速力で走った。
息を切らしながら森の中に飛び込むと、二人は転がるように倒れ込んだ。 森は広葉樹の太い幹の木々からなり、厚く生い茂った葉が太陽の光を遮り、薄暗くなっていた。 地面はすねぐらいまでの細長い草で覆われていた。 前方は緩やかな斜面になっており、小さな山になっているのだろう。
「これは本当にやばいぞ」木に隠れるようにして、戦場を見ていた上代はつぶやいた。
「とりあえず逃げよう、この場を離れるんだ。この山の向こう側へいってみよう」俺は、上代に森の斜面の方を指さした。 上代もうなずき、二人で静かに斜面を登って行った。 その山は10分も登ると頂上にいたった。 そこまで登ると、周りが良く見えた。この山は、縦が数百メートル、横が百メートルぐらいで、荒れ地が川だとすれば、この山は中州のようなものだった。 戦場もよく見えた。 最初に見えた方が主戦場で、山の反対側にも数は少ないが同様に戦闘が行われていた。
「おそらく、人間側がこの山を迂回して、騎兵で獣側の側面を突こうとしたのだろうが、向こうもそれを読んでいたというところか」上代が戦闘を眺めながらいった。
「これでは逃げられない。戦闘が終わるまで、ここに隠れているしかないんじゃないか」
結局、俺たちはその山の上で4時間以上隠れていた。 戦闘自体は2時間ぐらいで決着がついた。 どうやら獣側が勝利したようだった。 数の上では、人間側が優勢に思われたが、個々の戦闘力では獣の方が圧倒的だった。 特に体の大きな数十人が、人間の隊列に切り込み大混乱を起こすと、人間側は軍としての統制が維持出来ず、崩れ始めた。 一旦そうなると、戦況を覆すことは難しく、雪崩のように総崩れとなり、我先に逃げ出していった。 その後、獣の軍勢が戦場から引き揚げて誰もいなくなるまで、じっと俺たちは様子をみていた。
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