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「秋野がいきなり泣くから……つられた」
だめだ。ごまかさずにちゃんと伝えたい。
「俺……心の奥の自分の気持ちにやっとたどり着いたと思ったら、ほっとした。秋野に伝えられて、秋野がそばにいてくれて、ほっとした」
秋野が穏やかな目で俺を見ている。
俺にも奇跡が起こったと思った。
「佐山くんも素直になれたんだね。そうだよ。佐山くん、いい人すぎるよ。いつも自分のこと後回しにしてる」
いい人って言われたよ、川本。いい男はこれからだな。
これから?
そうか、秋野とは「未来」があるんだな。
「見て。星が出てるでしょ」
いつの間にか夜になっていた。夏の大三角形が東の空に浮かんでいる。
「あれがわし座のアルタイル。あれがこと座のヴェガやね」
「ヴェガは秋野の星や。織姫やから」
すると、秋野は口をとがらせる。すねているのか。
「ヴェガは嫌だ」
「何で。お姫さんやぞ」
「ほやかって、恋人と一年に一回しか会えんなんて、嫌や」
「そうやな、それは俺も嫌や」
「そうやろ!」
そして、にかっと笑う。本当に百面相だ。表情がくるくる変わる。
「見てて飽きんなあ。秋野は」
「あ、やっぱりあたしのこと、ペットやと思ってる!」
少女漫画を読んでて、女子の目の中に星が光るなんてのはありえないと思っていた。
隣で空を見上げる秋野の目の中に、星が光る。
強ち嘘でもないのか、とぼんやり考える。
もっと他に考えることあるだろ、と思いつつ。
これだけは、誓う。
ずっと、ずっとこれからも、俺は地上のヴェガを見続ける、と。
完
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