長雨の間に

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そんな急成長、どうやったら出来るというのだ。母の持っている三倍は料理本を買った。もちろん、作ってもみた。情報番組で見たお掃除方法も、雑誌に載っていた“百円均一で叶える、スッキリリビング!”なんていう記事に感動して収納グッズを試してみたりもした。けれど…… 「お母さんみたいにはなれないよ。私、もう四年も主婦をやっているのよ?」娘の言葉に、母は困ったような笑みを返した。やっぱり私は出来が悪いんだと思った。 それから私の家事の手本は、母ではなく、簡単!とかラクラク!といった太字が必須の本やネットの記事になった。それすら同じようにはいかないけれど、相手が自分から遠いぶん、母と比べる程には惨めな気持ちにならずに済んだ。 “まあ、食べられる食事”と“見える範囲が片付いた部屋”が維持出来れば、自分を褒めていいと思うことにしている。だって私の毎日を注ぎ込まなければ、そうはならないのだから。 それなのに、雨の日となると、どうしても家に居たくなかった。半日も家を空けたら、家事が疎か中の疎かになってしまうとしてもだ。特別な理由はない。雨の日にトラウマなんてこともない。そういうものは、私にとってはまるでドラマの中のことだもの。 私は平凡に生きてきた人間だ。それは平穏で、幸せなことだと思っている。主人は私を愛してくれているし、近所に住んでいる義父母とも上手くいっている。 ほんの少し退屈なだけ。雨は、そんな気持ちを酷くしてしまう。こんな時、私にとって県立図書館は丁度いい場所なのだ。少しだけ遠くて、少しだけ特別で、近くにおいしいコーヒーショップがあって。主人も知らない一人旅……そんな気分がよかった。 図書館で気に入った本は、借りたりせずに、帰りに家の近くの通い慣れた本屋で探した。そうすると、とても満たされた思いがするのだ。今朝は雨。今日も、そんな一日にするつもりだった。
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