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第13話 浮き沈みの激しい僕たち
「で、どこにいるんだい。その五瀬さんの同僚だったっていう女の人は」
「このビルの二階よ。名前は確か四家さん。二階ならちょっと頑張れば飛べる高さだわ」
「ふうん……あのドアの向こうだな。落っこちたりしないだろうな」
僕は三メートルほど上に見えるエレベ―ターのドアを見てそう呟いた。
「ダメなら彼女が一階に降りてくるのを待つしかないわ」
杏沙はそう言い置くと、再びエレベーターの屋根を蹴って飛びあがった。
僕は一瞬、届かないのではと不安になったが、先ほどとは違って杏沙の姿は飛びあがったまま、ドアの向こうに吸い込まれていった。
僕も杏沙の後に続き、ジャンプを試みるとうまいぐあいにドアを突き抜けることができた。
だが間の悪いことにちょうど廊下にいた人と鉢合わせそうになり、僕は目を白黒させた。
「落ちない……大丈夫だよ、七森」
「そのようね。でもいつ落ちるかわからないから、片っ端から見て回りましょ」
「覗くって、部屋をかい」
「ええ、そうよ。生徒は無視して四家っていうIDタグをつけた職員を見かけたら、通り抜けてちょうだい。幽霊だからいくら近くによっても煙たがられることはないわ」
杏沙はそう言うと、さっそく近くのドアに飛びこんでいった。僕も気後れしつつ、近いところの部屋から覗いて行くことにした。
土曜日にもかかわらず多くの教室で講義が行われており、僕はただ移動するだけでもかなりの数のタグを視野に収めることができた。
十分後、僕らはフロアの真ん中あたりで再び顔を合わせた。
「――どう、見つかった?」
僕が尋ねると、杏沙は即座に首を振った。
「おかしいわね、いないのかしら」
僕らが途方に暮れ始めた、その時だった。奥の小部屋から、書類の束を小脇に抱えた女性が姿を現した。
「あの人……確かめてみない?」
「行ってみるよ」
僕はそう言うと、女性に向かって移動を始めた。女性の前でいったん止まり、よし飛び込むぞと意を決した瞬間、何と女性の方がいきなり早足になり、僕と交差した。
「あ……」
予想外の展開に僕が戸惑っていると、杏沙がやってきて「見た?あの人よ、四家さん」と言った。
「え、そうなの?」
「気づかなかったの?もう、なにやってんのよ。……で、何か見えた?」
「うん、丘の上にぼろぼろの家が建ってて、車が停まってた。それと一瞬しか見えなかったけど、白衣を着た男の人が難しい顔をして立ってた」
「それよ。その人が五瀬さんだわ。……ね、もう一回通り抜けてみて」
「なんだい、人にばっかりやらせないで、たまには自分でやれよ」
「……わかったわ、やればいいんでしょ」
杏沙は僕を軽くにらむと、階段の方に向かった四家さんの背を追った。杏沙の動きが止まったのは、四家さんと入れ違いに階段から現れた女性を見た時だった。
「真咲君、気をつけて。あの人……『アップデーター』だわ!」
「なんだって?」
僕は思わずやって来る女性の目を見た。たしかに黒目が無い。杏沙はいったん四家さんを追うのをやめてこちらを向くと、僕の方へ引き返し始めた。だが僕と合流する直前、信じられない事が起きた。杏沙の姿が落下するように床に吸い込まれ、消えてしまったのだ。
「七森!」
僕は思わずそう叫ぶと、床にダイビングしようとした。……だが、今度は僕の身に別の異変が起きつつあった。どう頑張っても、幽霊の身体が下に降りて行かないのだった。
「七森……七森、くそっ、落ちてくれっ」
僕は地団太を踏むような仕草を繰り返したが、足は床からわずかに浮いたままだった。
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