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第3話 白昼のホラーは美少女と共に
「……よし、じゃあ今日は特別だ。コーヒーとクッキーをおごってあげるから、ここで気持ちを落ち着けて行きなよ。ただし、長居は駄目だぞ」
そういうと、マスターは僕を奥のテーブル席へと案内した。わお、なんて贅沢なんだ。
しばらくして運ばれてきたコーヒーは、ちゃんと苦みが勝っていて、クッキーと一緒に飲むと一層香りが引き立つ気がした。砂糖をたくさん入れるのは恥ずかしいので僕はあえて少し苦いまま飲み、これが大人のたしなみなんだなと気取っていた。
僕の目が、観葉植物を挟んださらに奥の席に吸いよせられたのは、コーヒーを半分以上、呑み終えたころだった。僕と同じくらいの年格好の女の子が、やはり僕と同じように一人きりでぽつんとテーブル席に座っていたのだった。
――あの子……
それとなく見つめているうち、僕はふとあることに気づいた。奇妙なことに女の子の前にはお茶もお菓子もなく、水すら置かれていなかったのだ。
――どうしてお店にいるのに何も注文しないんだろう?
僕の興味が必要以上に向けられたのには、ほかにも理由があった。女の子の外見が、はっとして見惚れてしまうほど美しかったのだ。それなのに、マスターはまるで女の子なんていないかのように、彼女のテーブルの前を平気で行き過ぎてゆくのだ。
そう、まるで幽霊のように。
――幽霊?
僕はまさかと思いつつ、あらためて少女の方を見た。気のせいか、少女の身体を通して後ろの椅子がわずかに透けて見えるようにも思えた。決して肌の色が白いからではない。少女の存在感と、周囲の風景との間に微妙な違和感があるといったらいいだろうか。
――まさか、僕にしか見えない女の子だってこと?
僕は急に鼓動が早まるのをを覚えた。少女は時折、物憂げに窓の外を見やったりしていて、ただの幻ではないことを僕に印象付けた。話しかけてみようか?そう思いかけて僕は、はっとした。もし彼女が幽霊なら、誰もいない席に向かって話しかけることになる。
きっとマスターは僕が廃部のショックでどうかしてしまったと思うに違いない。
そんなことを思いながら眺め続けていると、ふいに少女が席を立って移動を始めた。
少女が僕の横を通った時、僕はもう少しで声を上げそうになっていた。少女は脚も動かさず、床の上をすべるように移動していたのだ。
少女はそのまま支払いもせず、ドアの方へと移動を続けた。そんな少女をマスターは一向に気にする風もなく……というより、最初からそんな客などいないかのように忙しく立ち働いていた。
どうやって外に出るのだろう。そう思いながら眺めていると。そんな僕の心配を笑い飛ばすかのように少女は、なんとドアを突き抜けて外へと姿を消してしまったのだった。
――まちがいない、彼女は幽霊だ。
それにしても、と僕は思った。彼女はなぜ、幽霊の身でありながら、まるで生きている客であるかのように喫茶店なんかで時間を潰していたのだろう。
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