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第4話 スケルトンモードは突然に
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
ノックの音とともに聞こえてきたのは、妹の舞彩の声だった。
「あ……なに?」
半分、夢の中にいた僕はドアに向かって生返事をした。どうやらベッドの上で撮ったカットのチェックをしているうちに、カメラを放り出して寝てしまったらしい。
「そっちのパソコン、貸してくれないかな。イラストの仕上げをしたいんだけど」
僕は体を起こすと「ちょっと待って、今起きる」と返した。僕のデスクトップを使うということはつまり、部屋ごと明け渡せということだ。
「寝てたの?……ごめん」
「いや、いいんだ。今行く」
僕はベッドから降りようとして、ふと妙なことに気づいた。足が床にちゃんとつかないのだ。見たところ靴下のほかには何も履いておらず、床の上にも物は置かれていない。
――なんだこれは?
よく見ると、足の先がわずかに透けてその下のカーペットの色が覗いていた。恐る恐る足を踏み出すと、驚いたことに僕の足は床に触れることなく滑るように動いたのだった。
――これじゃあ、まるで幽霊じゃないか。
宙に浮いたままドアのところまでたどり着くと、僕はドアノブに手を伸ばした。だが、何度やっても僕の手はノブをすり抜け、どうしてもつかむことができなかった。
「なにやってんの?……あとのほうがいい?」
舞彩のせっつく声に僕は「いや」と返し、どう説明しようかとパニック状態になった。
「なんだかおかしいんだ、体が……」
「具合でも悪いの?……お母さん呼んでくる?」
そこまでしなくても、そう言おうとした僕は、次の瞬間、起きた出来事思わず声を上げそうになった。前のめりになった僕の頭が、ドアを突き抜けて廊下に出てしまったのだ。
「舞彩……」
驚いたことに、僕の飛び出した頭を見ても舞彩は何の反応も示さずドアのほうを向き続けていた。つまり……
――僕の姿が、見えていない?
今までに起きた出来事から考えると、今の僕は目にも見えず.、物にも触れられない状態にあるとしか考えられなかった。認めるのも恐ろしいがつまり、幽霊だということだ。
「……もう、なんだかわからないけど後でいいよ。パソコンが空いたら教えて」
舞彩は呆れたように言うと、すぐ傍で見ている僕には目もくれずにその場を立ち去った。
――僕の……僕の身体は、どこだ?
僕は首から下をドアの外に出すと、妹の足音を聞きながらがら透けた両手で頭を抱えた。
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