15人が本棚に入れています
本棚に追加
第5話 僕を殺した僕と、殺された僕 (1)
「なんだ、イラスト描いてんじゃなかったのか」
リビングのテーブルでプリンを食べながら舞彩を迎えたのは、兄の理だった。
「新ちゃん、いないみたい。変ね、お昼の時はいたのに」
舞彩はそう言うと、ソファーの上で携帯をいじり始めた。僕がリビングの中を移動しても、二人は気配すら感じていないようだった。
――仮に僕が幽霊だとして、僕は一体、どこで死んでるんだ?
見たところ二人に兄弟の死を嘆いているふしはない。ということは僕は誰も知らないところで事故か何かに遭っていて、魂だけが家に帰ってきたのだろうか。
早く身体を探しに行かなくちゃ、そんな思いに浮足立った、その時だった。
「あ、新ちゃんの声だ」
突然、舞彩がそう言って携帯の画面から顔を上げた。まさか。僕は声を発していないし、発したところで聞こえないのは検証済みだ。
「なんだい、外にいたんじゃないか」
「変だなあ」
兄と妹のやり取りに僕が透明な首をかしげていると、やがてドアが開く音と上がり框に荷物を置く音とが聞こえた。
「ああ、疲れた。まさか買い物中の母さんに出くわすとは……つくづく不覚だったな」
「そのくらい運ぶのが普通でしょ。……冷蔵庫にプリンの残りがあるから、食べていいよ」
玄関から漏れ聞こえてくる会話を聞いた僕は、心臓が止まりそうになった。母さんと喋っているのは……僕だ!
「あ、やばいな。これ新の奴だったか」
兄の理がプリンを食べる手を止め、ばつの悪そうな表情を作った。
「後でアイスかなんか買ってあげれば?新ちゃんの機嫌なんて簡単に治っちゃうって」
勝手なことを言いやがって、そう思いつつ、僕は幽霊であるにもかかわらずそそくさとソファーの後ろに身を潜めた。
最初のコメントを投稿しよう!