第5話 僕を殺した僕と、殺された僕 (2)

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第5話 僕を殺した僕と、殺された僕 (2)

「ああ、つかれた……あっ、兄貴、そのプリン……畜生やられたあ」 「悪い悪い、明日アイス買ってやるから、勘弁な」  ソファーの陰から様子をうかがった僕は、信じがたい光景に目をみはった。  テーブルの脇に情けない顔でへたり込んでいるのは、まぎれもなく『僕』だった。 「ちえっ、今日はついてないな。風景でも撮りに行こうと思ったら曇ってくるし、プリンはいつの間にかなくなっちまうし。……ゲームでもして憂さを晴らすかな」 「あ、新ちゃん。できたら二時間くらい、パソコン借りたいんだけど」 「え、今?」  舞彩の一言で完全にノックアウトされた『僕』は、ふらふらと僕の近くまでやって来ると、ソファーに身を沈めた。  僕はすぐ傍にいる『僕』の存在をソファー越しに感じながら、この『僕』はいったい誰なのだろうと訝った。  ソファーの向こうにいる『僕』が本物の僕の身体なら、どうして中身だけが幽霊のように離れているのだろう。ここにいる幽霊の僕と、あの身体を動かしている『僕』が同じ僕だとはどうにも信じられない。  だとすれば、今帰ってきた僕は『偽物』の僕ということになる。本物の僕はどこかで死んでいて、魂だけがここにいると考えた方がしっくりくるのだ。  ――ということは、あいつが僕を殺した?  僕は呑気にくつろいでいるソファーの向こうの『僕』に、戦慄を覚えた。あいつが僕を殺し、整形手術か何かで僕に成りすましているとしたら、いったいなんのために?  幽霊の僕は、殺された無念を晴らそうとして家に戻ってきたのか?わからないことだらけだった。  ――だめだ、いったん外に出て考えを整理しなくちゃ。  ぼくはそっとソファーの陰から出ると、そのまま壁に向かって進んでいった。  ベッドを離れてからここまで、僕は一度もドアを開けていない。もしかしたら。  ぶつかるのではないか、と淡い期待をしつつ壁に突進した僕は、ふと気づくと母が丹精している小さな庭の中にいた。  やはり駄目か。結局僕は人と物とも触れ合えないまま、幽霊として生きて行かざるをえないのだ。しかも自殺しようにも、そもそも僕はすでにこの世にいない。  絶望で一杯になった僕の頭に、その時ふと突拍子もない考えがよぎった。  ――あの喫茶店で見かけた女の子。あの子も幽霊なんだとしたら幽霊同志、話すくらいはできるんじゃないか?  現金なことにこのアイディアを思いついた途端、萎えかけた僕の気持ちは急に元気を取り戻し始めた。美少女とお友達になれるなら、幽霊って奴もそう悪くないかもしれない。  僕はそう呟くとやっと慣れ始めた『幽霊歩き』で塀を突き抜け、一直線に喫茶店のある方角を目指し始めた。
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