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第6話 壁抜け少女と謎の侵略者(2)
「ええと……その、君も『幽霊』なのかい?」
僕は澄ました顔の少女に続けて問いを放った。これ以上、勿体をつけられるのはいやだ。
「まあ幽霊みたいなものね。……その様子だとあなた、自分がどんな状態なのかまだわかっていないのね?……これはチャンスかもしれないわ」
少女は一方的に意味不明の言葉を連ねると、初めて口元に笑みらしきものを浮かべた。
「何がチャンスなのかわからないけど、目が覚めたらこうなってたんだ。僕は真咲新吾。中学二年だ」
「真咲君、か。私は 七森杏沙。あなたと同じ中学生よ」
少女は僕に向かって自己紹介をすると、ふたたび謎めいた笑みを浮かべた。
「それで、君はいつからこういう状況なの?」
僕が尋ねると、杏沙はなぜか勿体をつけるように鼻を鳴らした。
「いつから……か。そうね、あなたの言う『幽霊』になってから……つまり身体を乗っ取られてから二週間って所かな」
「身体を乗っ取られた?どういうことだい」
「言葉通りよ。侵略者に身体を乗っ取られて、意識だけがこうして幽霊みたいに街の中をさまよってるの」
「侵略者?侵略者って何だい。……それにどうして君は色んなことを知っているんだ?」
「一度に答えるのは無理。まずは……そうね、私が色んなことを知っているのは、まだ身体があった時に父の助手をしていたから。そして侵略者とは……正直、私もよく知らないわ」
「でも侵略者ってことは、どこかよそから来たわけだろ?いったいどこから来たんだい」
「それもわからない。確かなことは奴らがこの街を、そしてゆくゆくはこの国、この星を乗っ取ろうとしているってことだけ。私たちは奴らを『アップデーター』と呼んでいるわ」
「『アップデーター』?」
「そう。人間をアップデートして、違う何かに作り変えようとしている、未知の存在よ」
「違う何かに……」
杏沙の話は子供が聞いても信じないような、荒唐無稽なSF風のおとぎ話だった。
……だが、僕の身に起こったことは紛れもない事実であり、『アップデーター』の話を真顔で僕にしている杏沙もまた、僕と同じ『幽霊』なのだ。
「どこか別の場所で話しましょう。ここは何だか落ち着かないわ」
杏沙はそう言うと、立ちあがって当たり前のように壁を通り抜けた。僕も続いて壁を抜け、気がつくと杏沙と共に歩道の上に浮いていた。
「どこに行くんだい?どうせ誰にも見えないんだ。どこに行ったって同じだぜ」
「いい場所があるの。新人でしょ?黙ってついてくればいいのよ」
杏沙は幽霊のくせに僕に先輩風を吹かすと、軽やかな足取りで歩道の上を進み始めた。
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