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***
そして、当日。
嫌な予感は薄々してはいたのだが、かといって漠然とした予感だけでおままごとを中止させることもできず――私が目撃した光景は。
「おい、おまえ!」
レジャーシートの上。どーん、と胡座をかいて座る、瑛の姿。
「ビールもってこい!だれのかねで、メシがくえてるとおもってるんだ!おまえらはもっと、お父さんに感謝するべきなんだー!」
私、撃沈。
なんでまだ当時三歳だった息子が、酒浸りになって私に追い出された父親のことを、こうもしっかり覚えてらっしゃるんでしょーか。
さらに。
「何ですってー!もういっかいいってみなさいよー!」
恐ろしいことに、彩香ちゃんの方も全く負けていなかった。ずびしっ!とシートのど真ん中に座る瑛を指差して宣言する幼女。
「だからあなたはダメなのよ!おせんたくはやらないし、枕カバーはとりかえないし、お酒はまいにち缶ビール三本までって言ってるのにぜんぜんきかないんだから!だいたい、いいかげんかれいしゅーがやばいってことをじかくしなさい!いい年したおっさんが、酔っ払ってだきついてくるんじゃないわよ、きもいんだから!」
舞香、撃沈。
テーブルに突っ伏して動かなくなった彼女を見て、私は悟らざるをえなかった。
ひょっとしてこれ、舞香がいつも旦那に言いまくってる言葉をフルコピーしてるんじゃないか、と。
「ま、舞香……」
「ううう……亜希ぃ……」
私達は涙目で見つめ合い、心を一つにしたのだった。
おままごとは計画的に。事前の我が子の意識調査はそれはもうがっつりすべし。
でないと、我が家の恥を世間様に晒す羽目になるぞ、と。
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