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第8話【クラン加入者】
「うーん。なかなか、加入者こないな……」
「そりゃあだって、作ったばかりだし、やっぱりみんな強いところに入りたいしねぇ」
セシルの上級職クエストを終え、予定通り【竜騎士】になった後のレベル上げ中に、セシルがそんなことを言った。
そもそもクラン勧誘はかなり難しい。
一応募集している場合は、クランメンバー募集板と呼ばれるところに表示されるようになっているけれど、その数はゆうに百を超える。
加入希望者は検索しながら自分の入りたいクランを探すのだけれど、大体検索方法は一緒。
一つはクランレベルが高いところ。
クランレベルが上がると、クランメンバーの最大数が増えたり、取得経験値やステータスなどの補正を与えるクランスキルというのがより良いものを持てる。
知り合いのクランに入るのでなければ、よりレベルの高いところに入りたいと思うのが普通だ。
そして私たちのクラン【龍の宿り木】は、今のところレベル1でクランスキルすらまだ取得していない。
もう一つはクランマスターのレベルとメンバーの数。
クランマスターが強い方が本気度が分かるし、メンバーが多いところに入りたいと思うのが心情だ。
クランマスターのセシルは上級職になりたてのレベル20、メンバーは私を入れて二人だけ。
どう見ても知り合いのお遊びクランで、いくら加入者募集をしても入ってくるのは相当物好きかなにかだろう。
「それに加入自由じゃなくて、承認ありにしてるのも難しいかなーって」
「え? ダメなの? だって変な奴来たら嫌じゃない?」
「ダメじゃないけど、それだけ入りづらいよね。だって知らない人なのに、入れてください、ってお願いして待たなくちゃいけないんだよ? それなら承認なくても入れるところ選んじゃうよね」
「まぁ……言われたら確かにそうか」
承認というのは、クランの加入者募集の設定の一つで、加入希望が来るとクランマスターであるセシルに通知がいき、セシルが承認をして初めて加入できるシステムだ。
ネットの世界には変な人も多いから、そういう意味ではある程度の防止にはなるけれど、加入障壁は跳ね上がる。
「やっぱりクランレベルを上げたり、セシルのレベルを上げていくしかないねぇ。焦ってもしょうがないと思うよ」
選ぶ基準として、上位者になるとクランの戦績などを気にし始める。
攻城戦のランクや直近の結果は誰でも確認できるから、それを見てよりいい成績の場所に加入しようとする。
ユースケのクラン【神への反逆者】は、私が抜けた時は珍しくコア破壊での負けだったが、前回は勝ったらしい。
私が抜けても勝てたという事実が私の心を締め付けたが、それはセシルに分からないようにしないと。
「あ、待って! 誰か知らないけど、加入希望者来たみたい! どうすればいい?」
「え!? ほんと? うーんと、会って話をするとか、かな?」
「分かった。えーっと、チャットってどうやるんだっけ?」
「え? ああ、まず相手に友達申請を送って――」
☆
「よろしくお願いします……」
「こんにちは! 初めまして、マスターのセシルです。こっちはメンバーのサラさん。よろしくお願いします!」
「どうも」
連絡を取り、相手が良いと言うので、アイディールの街で会うことになった。
立ち話もなんなので、喫茶店で落ち合うことに。
実はこういうのがあるって知っていたけれど、実際に入るのは初めてだった。
思った以上に素敵かも。今度はプライベートでゆっくり来てみたい。
目の前に座る加入希望者はエルフアバターの男性。
見た目は銀髪銀眼にエルフ特有の端正な顔立ちで美形なのだけれど、いかんせん覇気がない。
「それで、ハドラーさんは、どうしてうちのクランに入りたいと思ったんです?」
セシルの質問が始まる。
まるで入試の面接官みたいだと思った。これで年下だと言うのだから驚く。
「えーっと……上位クランを目指しているんですよね? それで、サラさんでしたっけ? レベルがカンストですよね? でもマスターはセシルさんだ。本気なんだろうと思いまして……」
「え? な、なるほど?」
セシルは分かっていないが、このハドラーという人、きちんと考えている人だ。
言う通り、もしこれが知り合いの遊びクランなら、レベルが高い私がクランマスターをやっているのが普通だろう。
そして、この人のレベルはまだセシルと同じ20。
つまり自分も成長段階だから、一から一緒に成長する相手を探しているということなのだと言うのが分かる。
「えーと、これから試しに一緒に狩りに行ってみませんか? それでお互いを知ってから俺も承認するか決めて、ハドラーさんも入りたいかもう一度考えてみるというのは?」
「ええ……構いませんよ。役に立てると良いのですが……」
セシルもめんどくさいことをするな、と思ったのが正直なところ。
これからも加入者全員にこうやって面接のようなことをするつもりだろうか。
何はともあれ、三人で移動しドミール湿原までやってきた。
ここでモンスターを倒しながらお互いの実力や人柄を見るのだとか。
ハドラーの職業は【魔人】。
モンスターの種族みたいなの職業だけれど、対個人の出力が最も高い魔法職だ。
もちろん範囲攻撃もそれなりにできる。
ただ、使う魔法の詠唱がネックでなかなか扱いが難しい職業だと聞いている。
「それじゃあ、行きますよ。サラさん、お願い」
「うん。それっじゃ行くよ。えい!」
私はセシルとハドラーにそれぞれ必要な薬をスキル【ポーションスリング】で投げ付ける。
セシルには力が上がる【剛力の強薬】や敏捷が上がる【眼力の強薬】を使う。
一方、ハドラーには知恵が上がる【智力の強薬】を使った。
普段はもっと別のものも使うけれど、あまり使いすぎると実力が分かりづらくなるだろうからやめておいた。
「すごい。強薬だとここまでの効果が……」
「え? ああ。うん。もっと上の薬もあるけれど、今はそれが一番かな」
セシルは強薬を使い慣れているから気付いていなかったかもしれないけれど、このレベル帯の人達が普段使いできるのはせいぜい【中薬】まで。
【強薬】を毎回使えるというのはかなりのアドバンテージだと言える。
「では……行きます……」
そういうとハドラーはスキルを使い、周りにいるモンスターを殲滅し始めた。
それを見て正直驚いている。
レベル上げのために野良パーティに入れてもらっったことが昔あったが、その時の魔法職に比べるとありえないほど強い。
どういうことかと言うと、詠唱が速すぎる。
このゲームの魔法職は、持ち前の頭の良さが必要とされる。
魔法スキルを使う際に思考で毎回演算めいたことをするのだとか。
それが速ければ速いほど魔法を短時間で使える。
そしてハドラーのそれは、前見たプレイヤーに比べて圧倒的な速度だった。
さらに戦闘の勘も素晴らしい。
縦横無尽に動き回るセシルへの被爆、いわゆるフレンドリーファイアーはしないように注意しながら、的確に敵を倒していく。
これは……掘り出し物かもしれない!
セシルもそう思ったらしく、そうそうに戦闘をやめてハドラーに右手を突き出してこう言った。
「想像以上です。むしろこちらからお願いします。ぜひ俺らのクランに入ってください」
ハドラーは鱗に覆われたセシルの手を、その透き通るようなほど綺麗な手で握り返し答えた。
「ええ。よろしくお願いします」
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